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黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話 宇江佐真理 その2

「月に霞はどでごんす」
金で怨みを晴らす。そう聞くとまず思い浮かぶのが必殺仕事人である。
そう仕事人の江戸の世界がそのまま浮かんでくるのがこのシリーズなのだが、登場人物は必殺シリーズのようなものではなくオーソドックスな庶民である。真面目な同心と小者たち。
今回はその仕事の一味である太鼓持ちの話。複雑なミステリー要素などは皆無で、どちらかというと伊三次とお文との初めての子供の話のほうが中心かも。


「黒く塗れ」
今回一番ミステリー要素が強い作品かもしれない。
医者崩れの長庵の呪いに惑わされるという事件。そして呪いをかけられた人は無意識のうちにコントロールされ、行ったことの記憶が無い。なんともすごい術である。
そんなすごい事件だが、髪結伊三次の鋭い勘で事件解決ができるが、なんだかちょっと浅い。
本のタイトルになっている作品だが、イマイチ。
伊三次の子供の名付け親は不破、名前は伊与太。子供とのやりとりや生活などのほうがやはり面白い。


「慈雨」
巻末に作者があとがきを書いていたが、この作品はファンからの手紙によって書くことになった作品らしい。女ことばを話すスリ師の直次郎の物語。
前作で叶わぬ恋でバッドエンドだった直次郎。
個性的なキャラクターというよりも平凡なキャラクターに一人ひとりスポットライトを当てていきいきと描いているのがこのシリーズ。
平凡な登場人物が多い中でひときわ個性あふれる存在がこの直次郎である。だからファンも居るのだろう。確かに味があるキャラクターである。
前作「さんだらぼっち」がかなり前に読んだのでほとんどストーリーを忘れていた。前に読んだ「さらば深川」で直次郎が登場した時に、ああ、確かにこういう人物がいたと思い出したが、ストーリーは忘れてしまっている。キャラは本当に個性的だ。また「さんだらぼっち」を読みなおそうと思う。
今回の「慈雨」は本当にいい話。ファンからの手紙で作者が再度登場させることになったらしいが、直次郎がひときわ男前になったと思う。この本の中で一番よかった。

黒く塗れ―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

黒く塗れ―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

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