悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

みたびの海峡 帚木蓬生

閉鎖病棟」を読んで依頼の帚木蓬生氏の本である。
重い小説だった。
そして涙無くしては読めない。日帝時代の炭鉱、強制連行。海峡を隔てたふたつの国。非常に近いにもかかわらず、非常に遠い国。
これは今も変わらないのかもしれない。

主人公は河時根(ハ・シグン)。在日同胞からの連絡で彼は半世紀ぶりに日本へ訪問することで、この物語が始まる。
現在と過去を行ったり来たりしつつ、物語は進行する。前半は過去のことが語られる。
そしてその内容が重く、読んでいても辛くなってくるほどである。炭鉱という労働環境もさることながら、朝鮮人労働者であり、強制連行ということで劣悪というものを通り超えている。ブラック企業どころの騒ぎではない。
あまりに耐えかねて脱走を企てるが、見つかると半殺し、あるいはそのままリンチで殺されてしまったり。
日本という国を憎む気持ちがわかるような気もする。

その中で日本人、朝鮮人の国境を超えた愛があった。しかしそれを阻むものは非常に大きい。今の時代には想像もできないほどの大きな壁がある。

日本の手先となって動く朝鮮人。同族を裏切るというところに引け目は感じないのだろうか。自らのこれまでの行動に引け目は感じているようで、日本が戦争に敗れ、朝鮮人が開放された途端に身を潜めて生きるしかない。彼らもまた日帝時代の犠牲者という見方もできるが、やはりその罪は重く、仕返しされてもしかたがないと思う。
そして日本人と結婚したことで村八分にした同族。特に実の兄の態度はひどい。こういうものなのだろうか。主人公の苦労を思えば、兄の仕打ちはひどすぎる。

この作品で悪玉のボスとして描かれている山本三次だが、得てしてこういう人物が戦後の動乱期に乗じて財をなしたり、成り上がったりするものである。それを才覚といえば才覚だが、最期には惨めな末路が待っている。
それよりも山本に使われていた朝鮮人、康元範への憎しみが更に大きい。同族でありながら自らのためには彼らを切り捨てることも全く厭わない人間性。最期には殺されるというエンディングが待っているが…。

内容的に強烈な反日小説のように取られてしまうと全く意味が無い。反日感情を煽る描写はあるが、そもそも反日のための小説ではない。
ただ、こういう人々が当時いたというのは作り話ではなく、事実である。
日韓の間には大きな隔たりがある。最も近い国だが、心情的には混じりあうことができない。この小説の中でも何度も語られる水と油である。
だからこそ、この小説を若い人にもぜひ読んで貰いたいと思う。

永遠の0」も非常に良い小説。戦争というものを語る上で日本人ならぜひ読んでほしい。同時にこの小説も読んで貰いたいと思う。

三たびの海峡 (新潮文庫)

三たびの海峡 (新潮文庫)

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