悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

新世界より 〜貴志祐介

借りた本だが、最初はなかなか読みづらい。しかし途中からは中毒気味に続きが読みたくなる本だった。文庫本で1冊500ページほどあるのが。上中下で3巻ある。かなり長い長編小説である。
ジャンルとしてはSFになるんだろうか、それともファンタジーかなあ。完全架空のオリジナルファンタジーではなく、世界は今からおよそ1000年後の日本が舞台である。呪力という念動力を手に入れた人類がどのようにそれまでやってきたのかというのが読み進めていくうちに明らかになっていく。はじめは長閑な感じの過去の物語風であるが、明らかにおかしな世界観で、それを理解するのに少し骨が折れる。途中に出てくる獣や虫たちも架空であるにもかかわらず、妙に科学的な書き方をされているためなかなか読みづらいのである。
主人公の渡辺早希が35歳の時に手記として後世に伝えるために書いたという流れて物語は始まるが、幼い頃からの物語を描いていくうちにこの世界の異常さがどんどんわかるようになっている。初めの時点で挫折してしまうとこの物語の面白さについていけないかもしれないけれど、ある程度読み進めていくと、学園モノとしてはハリー・ポッターよりも面白く、常軌を逸した世界で描かれている。ハリー・ポッターにも奇妙な生物は登場するが、ファンタジーでは定番のものが多く、それほど驚くには当たらないが、この作品に登場する奇妙な生きものたちは本当に驚かされる。バケネズミや風船犬、不浄猫(ネコダマシ)などどれも名前だけでもおかしな感じだが、それぞれの習性を知るともっと恐ろしい。中でもバケネズミはこの物語において非常に重要な位置づけである。
呪力という魔法と同じようなものがこの世界の文明の基礎になっているので電気などはほとんど発達しておらず、水路を行き来するカヌーなどにもエンジンらしきものはない。そういうものを必要としない世の中である。人間はすべて呪力を授かっており、子供の時にはそれが使えないので危険区域である八丁標(はっちょじめ)より外に出ることができない。一種の結界が張られている。
現在の人類の歴史は非常に厳重に管理されており、知識は子供たちには管理された状態でしか与えられない。主人公達は幼年期から成長するにつれて、規則違反の常習者のようで、このあたりもハリー・ポッターなどと同じ流れかもしれない。
上巻はこの物語の世界観を描く導入部のようである。半ばくらいまでは本当に読みにくいところもあるが、全人学級(呪力を授かってから入る学校)になってからはテンポもよく、学園モノとして楽しめる。グループの仲間、主人公渡辺早希、親友の美少女秋月真理亜、優等生の青沼瞬、実質的なグループのリーダーである。ハッタリ名人の幼なじみの朝比奈覚。一番目立たない人物で真理亜をひたすら想い続ける伊藤守。本来はもう一人いたが、いた事も忘れてしまっているというのもあとになって不気味さを増す。
中巻は離別の話。幼い頃からのグループの仲間がひとりずつ離別していく。最も将来を嘱望され、主人公が愛していた青沼瞬との別れである。別れはいつも辛く悲しいが、彼との別れはほんとうに悲しい。残念ながらどうして彼がどうして業魔となったのかというのが未だにきちんと分からないし、あまりそこを描いてくれなかったのかが残念。ただ、呪力はもちろん知力、洞察力も全て備えていた彼の口からとうとうと語られる言葉には深い意味がある。そして親友の真理亜とそれに付き添う守との別れ。
下巻はほとんどバケネズミたちとの争いに終始する。本来は人間に忠誠を尽くすバケネズミたちだが、どうして反旗を翻したのかが読み進めていくたびに明らかになっていく。そして人類の歴史も戦いの中で明らかになっていく。バケネズミの切り札である悪鬼の正体は…。

戦闘シーンも迫力があってテンポが良い。周りを固める脇役陣も非常によく出来ていて盛り上げてくれる。主人公に匹敵するバケネズミ2匹もいいが、この世界を理解するために登場するミノシロモドキの設定も良かった。


新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

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