悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

殺人鬼フジコの衝動 真梨幸子

読み始めると一気に読んでしまわないと気が済まない。文章自体は平易で読みやすいが、内容がえげつない。そういう意味では決して読みやすくはないし、多感で純粋な子供が読む小説ではない。読み手を選ぶ。以下、ネタバレも一部含んでおります。

冒頭からタイトルにある殺人鬼フジコの生涯を描き始めているが、最初は不幸の連続。生まれてきた事自体が不幸なことだった。児童虐待、イジメの描写も遠慮のかけらもなくストレートで、読んでいて不快感を覚える。そしてフジコは一家惨殺事件の唯一の生き残りとして母の姉である叔母に引き取られ、新たな人生を歩みだす。そこでは「かわいそうな少女」を演じることによって「大人ってチョロイ」と思ってしまう。叔母に引き取られ手からはまともな人生を歩み出せるきっかけもあったが、彼女の中には自分という存在がなく、いつも周りを気にしてばかり。そしてクラスメートを殺したものの、「バレなきゃ悪いことじゃない」という感覚が身につく。周りの人物も酷い。中学時代に知り合った彼氏というのも人物として酷いが、幼く、彼の心は自分には向いていないことに気づかないため、あるいはそう認めたくないためか、彼から離れることが出来ずに泥沼にはまっていく。自ら不幸を導き入れるようなところがあり、見当違いの方向に一生懸命すればするほど、ますますおかしくなってしまうという人物の典型のようでもある。主人公フジコは幼い頃から幸薄く、自らも劣等感に悩まされてい入るものの、浅はかで、学ぶことなく、反省もしない反面、人を殺したという変な自信から時に相手見下してしまう。そしてドンドン殺人に手を染める。殺人のシーンそのものはあっけないが、エグイの殺したあとの処理方法。バラバラにして肉はミンチにしてトイレに流す。証拠が残らなければ、見つからなければなかったことと同じ、そういう考え方。幼い頃の殺人経験から「バレなきゃ悪いことじゃない」ということを繰り返す。なかでも最も親友に慣れたはずの杏奈を殺したあとは全く歯止めが効かず、転落の人生をドンドンと送る。くだらない人物に過ぎなかった彼氏だが、彼女と合うまでは学業も優秀なエリート大学生。自業自得な部分があるとはいえ、まさに彼女と付き合った人はどうしようもなくなってしまう最悪のサゲマンである。
整形を重ねて夜の蝶となり成金実業家と結婚したのが彼女の人生の頂点。富を手にするものの中身がなく心が満たされることがないのでますます浪費が重なりついには破綻する。そして常に悪いのは周りで、自分は悪くない。
ついには逮捕され今までの犯行が白日のもとにさらされる。本来ならここで終わるはずの小説だが、あとがきを読んで愕然とする。この小説にはまだ複雑な仕掛けがあったのだ。はしがきを読んで、なぜこんな「はしがき」がいるんだろうと思っていたが、最後に「あとがき」で仕掛けを披露するつもりだったんだとわかる。

児童虐待を受けた子供が成人したときに、我が子を虐待する、あるいは転落人生を送った親に育てられた子供がやはり転落人生を歩むという連鎖がこの小説の芯になっているだけ、本当になんだかやりきれない気持ちでいっぱいになる。
いずれにしても「あとがき」を読んでも後味の悪さは残る。一家惨殺事件の真相はわからないが、そこは読者の想像力におまかせということなんだろうか?

殺人鬼フジコの衝動

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