DVDでも見る機会があったにもかかわらず、結局見ていない。まあ、こういうものは本から入るほうがいいかとも思っていた。
死んでから正式にあの世に行くまでの7日間、初七日まではまだ魂は残っているという設定で、その日までは未練があるものはそれ相応の理由をもとに現世へ逆送してもらうことができるという設定。ただし、そのままの姿ではパニックになるので別の体を与えられる。実際には倒れ、お通夜、葬式が終わったあとなので実際に現世で活動できる期間は3日間。
主人公椿山和昭は高卒の叩き上げデパートマンの課長。彼の過労死から物語は始まる。死んでからあの世に行くまでの間に申立により現世へ逆送してもらうことになるが、同時期になくなったヤクザの武田勇、7つの子供の根岸雄太も相応の理由をもとに現世へ逆送してもらう。
基本は死者、死後の世界、残された人たちの生きざまを描いたコメディだが、亡くなった3名は本当に素晴らしい人物たち。彼らを取り巻く人達もそれほど悪い人物ばかりではないが、この世に未練があって戻ってはきたものの、やり残したことなど殆ど無く、死後に知った事実はうら悲しいものばかり。現世へ逆送してもらう条件として3つの約束があるが、それを破ってしまうとこわいことになる。こわいことって?明らかにされてはいないが、この小説内ではどうやら地獄ということらしい。殺人をしたものですら、反省ボタンをおして地獄行きを免れることもあるあの世の今風の仕組みにあって、極楽浄土へ行ける彼らが地獄へ行ってしまうというのは残念すぎる。まあ、あの世の役人もお役所的でそれを風刺しているとも取れるが。
自殺した人間がもう一度更に厳しい条件で人生をやり直すという罰があるという下りが前半にあった。そこでコメディ調で進むのでてっきりオチは主人公たちを含めてこの世に送り返されるのではとも思ったが、そこまで甘くはなかった。彼らはやはり死んでおり、もとには戻れない。
46歳で亡くなった椿山課長。私はすでにその年齢を超えてしまった。彼ほど猛烈に働いてきたわけでもなく、彼ほど優秀でもないが、まだ死ねないという気持ちはいっぱいである。人間納得して死ねることなんてあるんだろうかとも思う。
それにしても浅田次郎というひとはおっさん向けの社会派ファンタジーを書かせたら抜群だと思うね。本格派ファンタジーは指輪物語のような剣と魔法の世界に譲るとしても、この小説や「地下鉄に乗って」などはファンタジー小説だと思う。
椿山課長の父親、あるいは武田勇の生き方が素晴らしく、格好よすぎる。あの世できっと親友になるだろう。行き先が地獄ではつまらなさすぎる。
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