悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

お局美智シリーズ 明日乃

明日乃という作家のお局美智という本を読み、あれよあれよという間にシリーズを読んでしまいました。
一つひとつの作品は本当に短編小説のような長さなのですが、シリーズを通して話はドラマのように連続していて、次の巻を読みたくなります。

結局10作目までが一区切りのようで、そこまで読んでしまいましたね。



シリーズの紹介

お局美智

 

 

お局美智Ⅱ 姿なき愛人

お局美智Ⅲ You're fired!

 

 

お局美智Ⅳ キャット・パニック

お局美智Ⅴ 緑中央銀行錬金術

 

 

お局美智Ⅵ 汚れた異動辞令

 

 

お局美智Ⅶ ウイルス感染源を追え!

 

 

お局美智Ⅷ 特命出張は有給休暇で

 

 

お局美智Ⅸ キャバ嬢接待にご用心

 

 

お局美智Ⅹ 会社は私が守る!

 

 

登場人物

佐久間美智
主人公、経理課のベテランOL。
アラフォーの独身でいわゆるお局と呼ばれていますが、有能で会長からはある特命を受けているのです。
経理課から、総務課資産管理係に後に異動となります。

 

野村作太郎
創業者2代目のNOMURA建設会長。
社長は息子に譲ったが、美智を通じて社内の動きを把握。

野村勇作
3代目の社長。
女性が好きで、愛人もいます。
優秀な頭脳は持っていますが、お坊ちゃん気質が抜けないところがあります。

 

野村晶乃
社長の妻、つまりは勇作の妻で、社内では監査役という役員です。
しかし会社にほとんど出てくることはありません。

 

片桐瑞穂
監査役として緑中央銀行から天下りしてきました。
中央銀行への返り咲きを狙って、モチズリ建築とNOMURA建設との合併を画策しています。

 

野村容子
社長である勇作の娘で経理課長。
美智の尊敬する会長の作太郎から見れば孫になります。
美智よりも若く社歴も短いですが、直属の上司になります。
経理に精通しているわけでもなく、仕事よりも自分の遊びを優先するようなところがあります。

岡本皐月
新人社員ですが、父親はNOMURA建設の取引先の社長で、いわゆるコネ入社。
容姿端麗な社長令嬢で、厳しく教育できる人はいません。

 

内藤希美
派遣社員から正社員となった人物。
元大手企業に勤めていた出来る社員ですが、片桐のスパイとして美智の動向を探っています。

 

山一庄治
NOMURA建設常務。
仕事がとてもできる有能な役員だが、女癖がとても悪い人物。
女性の敵として美智の手で、NOMURA建設から追放されます。
しかし、ライバル企業であるモチズリ建築の部長となっています。

 

坂下なみ江
モチズリ建築社長。
美人で有能な女性です。

 

猫沢鉄雄
元山猫組組長。
高齢者ながら、現在はデイトレーダーとして活躍しています。
すごい爺さんです。

仲田弥生
重機オペレーターの巨漢女性。
柔道四段の猛者で、ジャンボと呼ばれています。

 

大村チヅル
高い所好きが転じて、とび職に。
元暴走族で、チビと呼ばれています。
仲田弥生と仲が良いです。

 

二宮聡史
総務課資産管理係長。
元トヨハタ自動車の社員でしたが、野村容子にスカウトされてNOMURA建設にやってきました。
野村容子の恋人です。

 

愛川友也
経理課長 1作目に登場する人物。
不正経理を美智に暴かれます、

 

青井由紀子
社長の愛人でⅡで登場します。
正体不明の人物でしたが、美智によって存在を突き止められ、きちんとした正社員となります。

 

福島博明
専務取締役でⅢで登場します。
You're fired!というのが好きな人物です。


木村義弘
40過ぎの独身男性で現場監督。
新人の岡本皐月に片思いのオッサンで何かと経理課に来ては、皐月と話をしたがります。
当初より登場しますが、Ⅲで物語の中心となります。

 

畑中栄蔵
国会議員で建設族

 

高野須芳徳
畑中の私設秘書で、様々な利権を仕切っています。



 

 

あらすじ

資本金1億円、社員数は150人、年商70億円という中小企業ですが、人口が20万人という地方都市にとっては大きな企業の一つであるNOMURA建設。
その会社の経理部にいる佐久間美智は、仕事ぶりや人間性を見込まれて野村作太郎会長にある特命を受けています。
それは会社内で不穏な動きがあるかどうか、特に社長である息子を脅かすようなことがないか目を光らせる役割なのです。
とは言え、平社員の美智にはそんな能力はないのですが、実は会長の野村作太郎は多大な投資をして、社員に持たせているスマートフォンにある仕掛けをしているのです。
それは会話が始まると自動的に録音し、一定の間隔で自動的にある場所にアップロードされる仕組みです。
その録音内容をチェックし、会長に報告するのが経理課の社員でもある佐久間美智に与えられた特命でした。

美智は特段出世欲があるわけでもなく、かと言って、いい加減な仕事をして給料だけを貰えればそれでいいという無責任な社員ではありません。
彼女は平穏無事に会社が回っていけば、自分のサラリーマンとしての人生も平穏にいられるということなのです。
また美智自身も前社長の作太郎のことは経営者として尊敬しています。
そういう人物であるからこそ、会長である作太郎に全幅の信頼を受け、このような特命を受けることになったのです。

美智は表向きは「みっちゃん」と呼ばれていますが、この「盗聴システム」によって自分が「お局美智」と呼ばれていることを知っています。
経理課にいる通常の社員は普通に仕事ができるのですが、年下の上司である野村容子や取引先の社長令嬢としてコネ入社した新人岡本皐月はほぼ戦力にならない状態で、彼女は経理社員としても貴重な戦力なのでした。

「お局美智」は何でも知っていると噂されるように、彼女はありとあらゆる問題を事前につかみ取り、それらに対処していきます。

はじめに問題を起こすのは同じ経理課の課長である愛川友也でした。
不正は行ったものの、課長の気持ちもわかるところもあり、穏便なはからいとなりましたが、経理課からはいなくなります。
そうしてやってきたのが、社長の娘である野村容子でした。
経理についてあまりわかっていない年下の上司というだけでも、気分がわるいところですが、美智はそつなくこなします。
Ⅱでは社長の愛人の正体を突き止めます。
愛人である青井由紀子と美智は不思議とウマが合うのでした。
不正会計で処理していた愛人の「囲い」費用を美智は青井由紀子を人事部付の社員として正式に雇うことで処理します。
Ⅲでは、福島博明専務の決め台詞であるYou're fired!(お前はクビだ)という言葉によって、追い詰められる現場監督たちの話です。
ⅣではNOMURA建設の慰安旅行でのお話。
ライバル会社モチズリ建築の美人社長板下なみ江が登場します。
またこの後は物語のスケールも大きくなっていくのですが、その際に必要なコマとなる登場人物のジャンボこと仲田弥生やチビこと大村チヅルも登場します。

 

Ⅴでは緑中央銀行とからんでビジネスを進めていくことになるのですが、その裏を知っていくと彼らの不正が見えてきます。
世間はクリスマスムード一色の中、美智は奮闘し、この危機を脱しようとします。
Ⅵには野村容子課長の恋人であるトヨハタ自動車の二宮聡史が登場します。
彼を引き抜き、自分のそばに侍らせたい野村容子の強引なヘッドハンティング
そして彼のためのポストを作るために創設された総務課資産管理係。
美智は経理の大変な仕事に加えて、この部署に異動となります。
Ⅶでは山猫組が表に出てきます。
この元組長猫沢鉄雄がまたユニークですが、なんとモチズリ建築の板下なみ江は彼の娘なんです。
板下なみ江は一目で美智の優秀さをかぎとり、モチズリ建築へ来ないかと告げます。
Ⅷでは話が大きくなってきます。
国会議員畑中栄蔵とその私設秘書高野須芳徳が登場します。
そして美智は会社のために、有給休暇を取って調査し、ある人物に直接会うことになります。
ⅨではNOMURA建設とモチズリ建築との合併の話となっていきます。
それには会長の作太郎も絡んでいます。
経験豊富で尊敬する会長作太郎と、頭は悪くないがお坊ちゃんで甘々なところのある社長の勇作。
畑中議員の私設秘書である高野須芳徳はとんでもない食わせものでした。
腕の立つジャンボやチビたちも美智の応援をするのですが、絶体絶命のピンチに陥ります。
Ⅹでは、危機を乗り越え、会社を守り切ります。
そしてNOMURA建設とモチズリ建築は合併。
大胆な人事で再出発することになるのでした。
お局美智は?なかなか粋なエンディングとなっています。

感想

面白かったですね。
盗聴というシステムがあればこその平凡なOLがスーパーOLとなって大活躍する物語です。
このシステムは完全にアウトな代物ですが、物語の中ではとても良く機能しています。
人の本音、陰口をあからさまにきいてしまえるというのは、有利な部分もあるかもしれませんが、ますます人間不信になりそうです。
ただ、我欲がなく、一社員として会社のことを思う姿は、まさにサラリーマンの鏡のような人物として描かれています。
そんなお局美智ですが、決して魅力がない女性ではなく、女たらしの山一にも口説かれたりするくらいですから、素敵な女性なんですね。
ただ、仕事を一生懸命するうちに気がつけばアラフォーになっていたという女性なんですね。
お局美智は有能な女性からはものすごくモテます。
もちろん性的な意味ではなく、人間として頼られるんですね。
この物語の当初から敵としての立ち位置の片桐監査役も最終的には美智に大きな評価をしています。
社長の愛人である青井由紀子とは出会ったときからウマが合いますし、ライバル会社の板下なみ江とも相性は抜群なんですね。
小説とは言え、素晴らしい人材ですよね。
盗聴システムというもので、人の本音がわかってしまうと、なんとも人間不信に陥ります。
筒井康隆さんの家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」という七瀬三部作、テレパスの主人公火田七瀬を思い浮かべます。
高校生のときに夢中になって読んでいた記憶があります。
知りたくもないことが耳に入ってくると言うのはある意味苦痛です。
美智は録音を聞かなければ良いのですが、会長から受けた特命を真面目にこなすたびに嫌な気持ちになるのでしょうね。
私なら、どこかに穴をほって、「王様の耳はロバの耳!」のようにぶちまけたくなりますね。
知りたくもない秘密を知って、心に留めておくのは辛すぎますからね。

とても読みやすくてスイスイ読めますし、物語の仕掛けも悪くないです。
登場人物も整理されていて、ドラマにもってこいな気がします。
どこかのテレビ局がドラマ化すればいいのに~と思いますね。

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