悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

百戦百勝 働き一両・考え五両 城山三郎

以前、Kindle Unlimitedで読んだ本です。
経済小説ですが、人生訓を多く含んでいます。


この小説の目次

序章 都心の妖怪

1 青い風の中で

2 ネズミがだめなら

3 浮き沈み

4 寝耳に水

5 妻をめとらば

6 暴力買い

7 金庫とやかん

8 ある情報

9 本物とニセモノ

10 うわさの男

11 黒頭巾出現

12 事件前後

13 不自由知らず

14 食わんがため

15 宝の山

終章 花開く

登場人物

春山豆ニ
主人公。
貧しい農村出身の大男。
学歴はないが、働き者で機転が利く人物。

お安
関西出身の飯屋で働く女性。
下働きから食堂を任され、自分の店も持ち、後にはビルのオーターとなる資産家にまで成長した女性。

増冨三六
相場が大好きな相場師。
相場を当てては「大名遊び」をし、廃れてもまた相場に寄って返り咲くということを繰り返した人生を歩みます。

冬子
萩野家という由緒正しい名家の令嬢。
お金の苦労は知らない生粋のお嬢様だが、当たり前な結婚を望まず、豆ニの妻となる。

石井定七
大阪の相場師。
一時は増冨三六もその配下となった大物。

伊東ハンニ
黒い噂が絶えない謎の相場師。

 

あらすじ

春山豆ニは貧しい農村で生まれました。
長男なのに豆ニという名前は、「マメに働くように、そして豆は2つ植えて、良い方を育てろ」という意味を持って父親がつけました。
春山家のもう一つの訓示として「働き一両・考え五両」と豆ニに伝えています。
これは自らの労働力に頼ることでは一両の稼ぎしかできないが、頭をつかうことでその稼ぎは五両にもなるという意味です。
父は結局、家の経済事情を傾けるだけで、経済的には全く成功せず、貧しく、腹いっぱいの米が食べたい彼は幼い頃に米問屋に丁稚に出ます。
元手のない豆ニでしたが、はじめは米屋の倉庫にいるネズミの駆除によって少しずつお金をためていきます。
働き者の豆ニは、米問屋の番頭にその才覚を認められるようになり、
もともと地アタマのよい豆ニはその大きな福耳をフルに活かした耳学問によって財を増やしていきます。
貧しかった豆ニが通う食堂には「お安」という女性が働いています。
彼女もお金に敏感な女性で、相場の怖さを知っているのか豆ニにその怖さを教えるのですが、豆ニにとっては相場はとても魅力があります。
相場師として一山当てた増冨三六の大名遊びを見せつけられた豆ニ。
それに憧れたというわけではありませんが、「働き一両、考え五両」を実践するためにはやはりコツコツ働くだけでなく、相場というものを見極めようとします。
彼は米問屋で丁稚として働いていましたが、働き者で目先の利く見どころのある人物だったので、すぐに番頭と得意先を回ったりするようになります。
そして次第に仕事を任されるようになるのです。
また米の勉強もやればやるほど奥が深く、次第に年少だが、目利きではかなうものがないほどになります。
また米相場において、豆ニは勘所をつかんでいくのです。

兵役もあったが、お安の入れ知恵と豆ニの才覚もあり、覚えめでたく優秀で2年で除隊となりました。
兵役中、衛生兵として同期の萩野は生まれも育ちも違う家柄。
高嶺の花である荻野家の令嬢に恋心を抱く豆二ですが、庶民で釣り合いが取れているのは自分だと言わんばかりのお安との関係も微妙。
しかし、豆二はお嬢様の冬子を妻に迎えます。
お嬢様の冬子は庶民には想像もつかないものを夫にねだるのですが、それを実現するために豆ニはいっそう仕事に励むのでした。

感想

伝説の人物、山種証券の創業者、山崎種二さんをモデルとした小説です。
山崎種二さんのことも全然知らなかったのですが、後に様々な大物人物と縁を持つなど、現役時代はいかに凄まじく生きてきたのかと言うのがわかります。
小説なので幾分脚色もあるかと思いますが、相場を巡っての激しい応酬、特にこの時代は今のように規制も厳しくないため、それこそ仕手戦のやり口がえげつなかったと思われます。
そんな中で実在の人物、石井定七や伊藤ハンニを敵に回して激しく闘い、そして勝ち抜いてきた人物で、それは凄まじい気力、胆力であったのだろうと思います。
こんな相場においては泣く子も黙るほどの豪腕というイメージですが、家庭内においては奥方の冬子に頭が全く上がらないといった点も、面白おかしく描かれています。
これだけの人物ですから、当時の男性としては女遊びも派手だったのでしょう。
大きな体を小さくして、奥方にお伺いを立てるところなどなんだか可愛げのある人物にも思えます。
また苦労知らずのお嬢様というイメージのある奥方ですが、「貧乏」をする経験もまた愉しとでも言いたげな、そんな人物で、夫に対する要求も、宝石がほしいだの、きれいな衣装がほしいだのというレベルとは違います。
不便だから橋を架けろだとか、梅の花が好きだから、梅林公園並の土地を買って別荘を作るとか、スケールが違います。
結果としてそのいずれもが吉と出るのですから、まさに「あげまん」でもありますし、豆ニもとても叶わぬところでしょう。
苦労人の豆ニですが、子育てという点でも奥方にまかせっきりだったのが良かったのでしょう。
きちんとした教育をつけ、立派に育て上げた賢母ですね。
なんというかスケールの大きな経済人だったんですね。
今の財界の人から見ると、「あの時代は良かった」というのかもしれませんが、逆の見方をすると今の財界人は「スケールが小さい」というか、セコい感じがしてなりません。
時代が変わったのでしょうが、財界人、政治家、官僚、いずれをとってもセコく、意地汚いようにしか見えません。

 

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