悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

マリアビートル 伊坂幸太郎 列車内で繰り広げられる物語

伊坂幸太郎さんのマリアビートルを読みました。
グラスホッパー」の続編にあたる殺し屋シリーズですね。
グラスホッパー」と話が続くわけではないので、この作品から読んでも全く違和感はありませんが、前作を知っていればニヤリとする場面もありますので、どちらも読むつもりなら「グラスホッパー」から読む方がいいですね。

 

tails-of-devil.hatenablog.com

 

登場人物

七尾
この物語の主人公。
世界一ついていない男で、彼の周りにはいつも不幸が満ちています。
簡単な仕事のつもりがいつも厄介に巻き込まれます。
殺し屋としてのキャリアは浅いですが、基本能力が高いのか、いつもなんとか生還しているという人物。

 

真莉亜
七尾の仕事をコーディネートする相方です。
有能な人物らしいのですが、彼女は現場には出ず、指示ぞ出すのみです。
「簡単な仕事」を七尾に出すのですが、いつも「大事」になってしまいます。

 

木村雄一
アルコール中毒の元殺し屋。
息子の渉をデパートの屋上から突き落とした犯人に仕返しをするために盛岡行きの新幹線に乗り込みます、
渉にとってはジジとババにあたる両親が健在です。

 

王子
あどけなさの残る中学2年生。
ある意味この物語の中心人物。

 

檸檬
蜜柑とコンビを組む殺し屋です。
スリムな長身で運動神経が抜群ですが、大雑把な性格。
きかんしゃトーマス」が大好きで、そこに哲学を見出しています。

 

蜜柑
冷静沈着な殺し屋で、スリムで長身なハンサムです。
読書家で相方の檸檬に本を薦めますが、檸檬は読みません。
檸檬からは「きかんしゃトーマス」の仲間たちを教えてもらうのですが、覚える気がないのかいつも聞き流しています。

 

峰岸
寺原亡き後、闇の業界を仕切る大物です。
非情な人物であり、様々な怖い噂が絶えません。

 

鈴木
元高校の教師で、現在は塾の講師をしています。
優しい人柄で殺し屋ではありませんが、殺し屋と交わった強烈な過去があります。

 

槿(あさがお)
通称押し屋と呼ばれる有名な殺し屋。




スズメバチ
寺原を殺ったことで有名になった殺し屋です。
その正体は謎に包まれていますが、殺しには毒を用いるということがわかっています。

 


七尾に恨みを持つ殺し屋です。
口では大きなことを言うものの峰岸にゴマをするだけで、能力はそれほど高くないようです。

 

 

あらすじ

めぐり合わせが悪いのか、ツキに見放されている裏稼業の七尾は相棒のコーディネーターである真莉亜から「簡単な仕事」だからと、仕事を受けます。
東京駅で東北新幹線に乗り、そこにあるトランクケースを持ち出して上の駅で降りるだけというものでした。
しかし、いつも簡単な仕事と言われながらも「大事」に巻き込まれてしまう七尾は不安でいっぱいです。

元殺し屋で、今はアルコール中毒
妻にも見放された木村にとっては6歳の息子の渉はかけがいのない子供です。
しかし渉はデパートの上から転落し、今は意識不明で入院しているのです。
渉が転落したのは、ある中学生に突き落とされたからで、彼に復讐を誓い、約束の東北新幹線に乗り込みました。
ところが王子という少年はただものではありませんでした。
木村はたちまち形勢逆転し、王子に行動を制限されてしまうようになります。

裏稼業では数年前までは「令嬢」という怪しい会社のオーナーであった寺原が牛耳っていましたが、寺原の息子が押し屋に殺され、押し屋を捕まえるために大動員をかけた寺原が逆にスズメバチという謎の殺し屋に殺されてしまいます。
その後、寺原に代わるように台頭してきたのが峰岸でした。
峰岸もその悪辣さは都市伝説となり、裏稼業の人間にとっては恐るべき存在でした。

檸檬と蜜柑と呼ばれるコンビは、このウラの業界では有能な殺し屋として名が通っています。
二人はともに長身でスリムであり、似ているために双子や兄弟と間違われるほどです。しかし性格は違い、檸檬は大雑把で蜜柑は冷静で緻密です。
彼らは峰岸からの直接の依頼で仕事を終え、この新幹線に乗っているのです。
峰岸の息子が誘拐され、身代金を持って息子と交換して連れて帰るというのが仕事でした。
依頼がそれだけで済めばよいのですが、峰岸はものすごく細かく意地汚い悪党で、仕事の優先順位をつけてこなせというのです。
第一は息子の命。
第二は身代金。
第三は犯人たちの殺害。
というもので、結局、そのいずれもやれ、ということなのです。
全てやりのけた有能なコンビは峰岸のボンボンと一緒に新幹線に乗り込んでいました。
ところが、身代金の入ったトランクケースが見当たらず、檸檬と蜜柑は口論している間に、峰岸のボンボンは殺されているようです。
傷などもないことから毒をもられたのかもしれません。
経験豊富で有能な二人も峰岸の性格を熟知しており、「かなりやばい」状況になったと実感しています。

トランクケースを奪ったのは七尾でした。
七尾は簡単な仕事だと聞いていましたが、奪う相手がこの業界きってのコンビとされる檸檬と蜜柑と知り、慎重に事を運び、奪うことに成功します。
そして上の駅で降りようとした時に、七尾に一方的に悪意を持っている狼という殺し屋が乗り込んできました。
七尾は降りることができず、「やっぱりスムーズにはいかない」と思うのです。
七尾は自分のツキの無さは理解しており、いろんな準備は怠らない性格です。
また彼は本人が思う以上に臨機応変な対応能力を持っており、狼ごときは相手ではありませんでした。
ナイフで七尾を殺そうとした狼でしたが、素早く対応し、狼の首の骨を折って殺害してしまいます。

七尾、檸檬と蜜柑、そして木村を連れている王子という三つの勢力が新幹線内で繰り広げる駆け引きが始まるのです。

 

 

感想

この物語の舞台は東北新幹線の車内です。
ほとんどがその中での話で完結します。
そのためリアルタイムでは2時間にも満たない時間のはずですが、群像劇でもあり、各キャラクターのシーンに戻ってストーリーが絡み合います。
伊坂幸太郎さんの作品によくある構図です。
というわけで物語自体がとてもスピーディなんですね。
列車内で繰り広げられる物語、小説というのも結構あります。
アガサ・クリスティーオリエント急行殺人事件などは有名ですよね。
この作品はそれらの名作の仲間入り?という風に並べられるようなものではないと思いますが、エンターテイメント性は高いです。
読んでいて楽しかったですね。

世界一ついていない殺し屋という小説ならではのキャラクターを生み出して、それをメインにいろんな殺し屋たちが絡んできます。
もう、小説、フィクションの世界そのものであり、読みながらも次の展開が待ち遠しくなる本ですね。
この伊坂幸太郎さんの作品は映画化されています。
前作の「グラスホッパー」は日本で映画化されました。
タイトルもそのままで、ストーリーも概ね原作を踏襲しています。
続編である「マリアビートル」は「ブレット・トレイン」というタイトルで現在も公開中の映画です。
主演がブラット・ピットですね。
とても気になるのですが、見ていません。
劇場に足を運んでまで見るか?というと息子も妻も一緒に来そうにないので、おそらくネットで公開されてからになると思います。
「ブレット・トレイン」はタイトルだけでなくハリウッドで制作された映画ですので、ガラリと雰囲気は変わると思います。
しかしメインとなる構図は同じようなのですね。

タイトルの「マリアビートル」ですが、てんとう虫のことを刺しています。
つまり七尾のことですよね。
そしてマリア様の虫という意味も含んでいますし、当然コンビを組むコーディネーター真莉亜のこともかけているのだと思います。
おしゃれなネーミングですね。
内容は人殺したちの物語なので、物騒な内容なのですが、伊坂幸太郎さんの作品に登場する殺し屋は、ものすごい血生臭さと言うのは感じられません。
コミカルとまでは言わないまでも、どこか浮世離れしているというか、現実感がありません。
ネタバレになるのですが、物語の終盤に息を吹き返したかのように活躍を始めるのが木村の父親で、めちゃくちゃかっこいいです。
そう思わせる伏線が、最悪の人物にあるのですが、最悪の人物というのが王子様なんですよね。
あどけないボンボン風の中学生で、彼の武器は相手の心理に揺さぶりをかけ支配してしまうことです。
天才ですが、人間として終わっています。
サイコパスですね。
木村の父親は電話で王子と話した時に過去の経験からくる嗅覚が反応するんですね。
「くせえ、くせえ」と理屈抜きにこの少年を疑ってかかるのです。

この物語のきっかけを作った一人が峰岸という超悪な人物。
殺し屋を使って依頼した殺し屋を始末するということを平気でします。
果物コンビは正式に峰岸から依頼された仕事としてこの新幹線に乗り込み、七尾には彼らが持つトランクケースを盗ませるというのですからね。

そして木村が新幹線に乗り込んだのも一人息子の渉の敵討ちのためでした。
木村はアルコール中毒のどうしようもない父親として描かれます。
殺し屋としても一流ではなく、今はその仕事からも離れている人物ですが、相手は中学生。
殺し屋としてこの少年にお仕置きをしてやろうと思っていたのです。
ところが、この王子と呼ばれる少年は天才で、逆に支配されてしまいます。
この新幹線の車内で主導権を持って支配を強めていったのがこの王子で、悪魔のような人物ですね。
サイコパスであり、人の心を支配して操る事に快感を覚えるのでしょう。
そのために無邪気な少年を演じたりすることもあり、読みながらも気持ち悪さを感じました。
峰岸のようなよくある悪党よりもよほど嫌悪感を催しますね。

檸檬と蜜柑の果物コンビはとても良いコンビです。
仲良しではないもののお互いに対する信頼感は抜群ですし、信頼を得るだけの能力を持っています。
特に好きなキャラクターは檸檬です。
きかんしゃトーマスが大好きで、あの物語に登場する機関車のキャラクターや物語から人間が生きて行くべき道を説いています。

ブレット・トレインの映画は大ヒットというわけではないですが、かなりの興行成績を収めています。
製作費は9000万ドル以上とされていますが、世界興行収入は2億ドルを超え、北米だけでも1億1000万ドルを超えたと言われています。
邦画の製作費、興行収入と比べても仕方がないですが、スケールが違いすぎますよね。

www.bullettrain-movie.jp

 

 

 

 

 

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.