悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

前科者 ~不幸の連鎖を止めるために~

アマゾンプライムビデオで視聴しました。
重い映画でした。
この映画も原作は漫画らしいのです。
漫画も見ていませんし、内容も知らないまま視聴しました。
タイトルから重い話だろうとは思っていましたが、くすっと笑うというシーンは皆無でした。
しかし真面目に作られた見ごたえのある映画でした。
邦画はこのような作品がやはり合うのでしょう。

「前科者」の概要

監督 岸善幸

脚本 岸善幸

原作 香川まさひと、月島冬二

公開 2022年1月28日

配給 日活、WOWWOW

上映時間 133分

キャスト

阿川佳代 有村架純

工藤誠 森田剛

工藤実 若葉竜也

滝本真司 磯村勇斗

遠山 リリー・フランキー

斎藤みどり 石橋静河

鈴木 マキタスポーツ

コンビニ店長 宇野祥平

宮口弁護士 木村多江

あらすじ(ネタバレあり)

新米の保護司である阿川佳代は殺人の罪で服役していた工藤誠の保護司として面談します。
保護観察にある工藤誠は真面目な性格で、寡黙ながらも手先が器用で、働き口である自動車修理工の社長からも認めてもらえるようになってきました。



工藤は大変おとなしい人柄で、はじめは保護司である阿川とも打ち解けられないようでしたが、徐々に打ち解けてきます。
阿川は決して経済的に恵まれているわけでもなく、仕事はコンビニでのアルバイト。
それでも無報酬の保護司の仕事はライフワークとしているのか、忙しい中でも時間を作り力を注いでいます。



アルバイト先の店長からも「どうして一銭にもならないのに保護司の仕事をやっているの?」と聞かれるのですが、彼女は「一銭にもならないからこそやっている」と答えるのです。
お金のためだけに働いているとしたら、自分の存在価値を認めることができないのです。
また工藤誠とも何度か面談するうちに、「どうして保護司になったのか」と質問をされます。
彼女には保護司になった深い理由があるのでした。

黒いフードで顔を隠した男性が警官を襲い、所持した拳銃を奪います。
警官も奪われるときには撃たれてしまいました。
その後、奪われた拳銃を使った殺人事件がおきます。
役所の福祉課の女性がいきなり黒ずくめの男性に至近距離から射殺されてしまいます。
刑事の鈴木と滝本は早速捜査にあたります。
殺された女性の調査とともに拳銃を奪われた警官を調べていきます。
当初は殺される理由は出てきませんでしたが、調べていくうちにある不幸な兄弟に行き着きます。
それは工藤誠と工藤実という兄弟。
工藤兄弟の母親は、家庭内暴力が収まらない夫のことで警察に相談しましたが、親身になって対応しなかった警官がいました。
そして幼い次男の実への暴力によって、ついに母親は子どもたちを連れて、家を出ることを決心したのです。
相談した役所の福祉課の女性職員のミスで夜逃げのようにこっそりと夫から逃げてきたにも関わらず、母子たちの新住所がバレます。
激怒した夫は感情的になってその家に押しかけ、子供の目の前で妻を殺害するのです。
もちろん夫(父親)は逮捕され、刑務所へ行くのですが、子どもたちは施設へ預けられることになります。
その施設の担当も相当にひどい人物でした。



役所の福祉課の女性が殺された後、この施設の担当も射殺されるのです。
殺したのはいずれも弟の実でした。
実に自首するように勧めるのですが、弟の苦悩を一番よく知るのが兄の誠です。
後わずかで仮出所から保護観察期間が終わるというときに、工藤誠は弟ともに失踪するのです。
次に彼らが狙ったのは父親でした。
父は今は刑務所から出所し、一人で生きているようです。
居所を突き止めた兄弟は父へ母を殺害した復讐をしようとするのでした。
結局、警察により父への復讐は果たせなかったのですが、弟の実はその場で自らの命を絶ちます。



感想

なんとも言えないほど暗い話の展開です。
不幸の連鎖と言うか、それを断ち切るために必要なことが行われず、追い込まれてしまった人が起こすさらなる不幸。
それこそがこの映画のテーマだと思います。
また保護司をする主人公阿川佳代が生きていくための大切なテーマでもあるのです。
もとを正せば、彼らの父親がクズすぎることが原因です。
家庭内のことで何があったのかはこの映画では描かれていません。
しかし、映画の終わりの方での方で、、もともとは幸せに家族で仲良く暮らしていた時期もあったのです。
当時のビデオを父親のアパートのテレビで再生しているシーン。
そこに飛び込んできた次男の実。
なんとも言えないシーンでした。
結局、憎い、殺してやりたい父親でしたが、実は発砲することができず、警官たちに取り押さえられます。
その後、兄の姿を見て「兄ちゃん」と声を出す実のあまりにも純粋な声が痛々しすぎます。
実(みのる)は連続殺人犯です。
やってしまったことは許されざることであることは間違いありません。
兄の誠も殺人犯です。
彼は罪を償い、社会復帰を果たそうとしているところでした。
ちなみに父親も妻殺し。
殺人という犯行の連鎖。
これほどの不幸なことはありません。
人生にタラレバはありませんが、あの時にああしていればという分岐点でことごとく裏目を引いてしまった母と兄弟たち。
不幸すぎます。
相談した警官が面倒くさがらずにもう少しだけ協力してくれていたら。
福祉課の職員があんなミスを犯さなければ。
施設の職員がもっとまともな人間だったら。
言い出せばキリがありません。
先日読んだ「ケーキを切れない非行少年たち」でも、なぜ非行少年になるのか?という点が書かれていました。
彼ら兄弟は非行少年ではありませんが、心が壊れてしまっています。
起こしたことは罪深いことではありますが、もとを辿れば、完全なる被害者なのです。
主人公の保護司阿川は過去に恋仲だった滝本の父親が自分の身代わりとなってなくなってしまったことに深く心が傷つきます。
凶行に及んだ人間を憎むよりも、その犯罪が起きた原因を考えると、そんな犯罪を犯さないように犯罪者のケアをすることの大切さを知っているのです。
保護司という無償の仕事をライフワークとし、受刑者に寄り添い、サポートすることが自分に与えられた使命と思っているようですね。
彼女と同世代の元受刑者の斎藤もこの物語ではワンポイントとなっています。
また元詐欺師のおっさんもひどい人物ではありますが、意外にまともな人間なのですね。
保護観察が開けたお祝いにお酒を持ってくるのですが、元受刑者と一緒にお酒を飲むことは禁じられているといったんは断るものの、一杯だけと言いながらもたくさん飲んでしまいます。
そして疲れているのが眠ってしまいます。
これまでの流れからこのおっさんにい卑猥なことをされてしまうのではないかとヒヤヒヤするのですが、このおっさんは優しく風邪をひかないように布団をかけ、保護司への感謝の手紙を書き残して退散するのです。
見ている方はものの見事に騙されましたが、それは見ている我々が元犯罪者を悪いやつだと思っているからではないかというメッセージのようにも思えます。



主人公の阿川を演じた有村架純さんはいつもどおりの演技です。
取り立てて美人の役柄でもないですし、地味な女性。
無難にこなしていると思います。
工藤誠を演じていた森田剛さんはV6で宮沢りえさんと結婚された人ですよね。
若い頃はやんちゃなイメージが強くて、どちらかというと嫌いなタイプでした。
そういうわけで、あまり期待はしていなかったのですが、控えめな演技で非常に好感が持てました。
今後も役者として活躍してくれるのではないかと思いますね。
そして弟の実を演じていたのが若葉竜也さん。
すでにかなりのキャリアを持っている俳優さんのようですが、残念ながら知りませんでした。
役柄的に本当に難しいポジションだと思いますが、素晴らしい演技だったと思います。
最後に残した言葉である「兄ちゃん」というセリフは心にしっかりと刺さりました。
この映画の最高のシーンだと思うのです(内容的には最悪ですが)。
クズの父親を演じているリリー・フランキーさんは、言うに及ばず。
こういう役柄を演じさせれば最強でしょう。

普段は邦画の悪口ばかりを言っているのですが、この映画は質が高いと思います。
是非ご覧になってはいかがでしょうか。


 

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