悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

総理にされた男 中山七里

安倍元総理の国葬が執り行われました。
安倍元総理がお亡くなりになったことに対しては弔意を申しあげますが、国葬に関しては、どうなんだろうと今でも思っています。

そんなタイミングということでもないのですが、今回読み終えた本は、「総理にされた男」。
中山七里さんの本ですが、とっても楽しく読めました。
同時に今の政治に不満を持つ人は思っているもやもやが文字に、文章にしてもらっていて、よくぞ言ってくれた!と思います。。
とても痛快な本です。

生活保護を舞台にした小説「護られなかった者たちへ」もとても良い小説でしたが、エンディングが悲しすぎるのですね。

 


 





総理にされた男

総理にされた男 目次

一 VS閣僚

二 VS野党

三 VS官僚

四 VSテロ

五 VS国民

エピローグ

 

登場人物

加納慎策
この物語の主人公。
35歳の独身、売れない俳優。

真垣統一郎
父親が総理大臣を勤めた人気議員であったが、急逝したため、その地盤を引き継いで国会議員となります。
父親以上にカリスマ性があり、党内だけでなく多方面から人気を集め、あっという間に総理大臣に上り詰めた時の人。
まだ40歳の青年政治家でもあり、歯切れのよい答弁が持ち味。


安峰珠緒
慎策と同棲する6歳下の女性。
病院で医療事務をしている。
経済的に頼りにならない慎策だが、不平を言わずに影で支える慎ましい女性です。

樽見正純
真垣統一郎内閣の重責を担う内閣官房長官
ややもすれば軽んじられる若い真垣内閣を支え、手綱を取っている人物。

風間歴彦
城都大学政治経済学部准教授。
加納の学生時代に友人で頭は良いのだが、人付き合いが悪いため友人がほとんどいない人物。

 

あらすじ

加納慎策は売れない役者です。
劇場の前座でモノマネをしたのがとてもウケ、今やものまね芸人のような扱いですが、本人は役者であるので、ギャラを受け取っているわけでもありません。
そのモノマネというのが真垣統一郎総理大臣のマネなのですが、もともと顔立ちも声質も似ているため、立ち振舞や話し方を真似すれば、ほとんど見分けがつかないほど似ているのです。
そんなソックリさんによるモノマネなので慎策はものまね芸人としてではなく、たまたま他人の空似でさせてもらっているだけでちっとも嬉しくはありませんでした。
劇団員の俳優としての活動では食べていけないのでバイトはしていますが、そのバイト料も劇団の活動費としてほとんど使っているため、同棲中の6歳下の玉緒に生活の面倒を見てもらっている状態です。

自分の情けなさと玉緒の優しさのために何とも言えない気持ちに包まれた慎策でしたが、翌日珠緒が仕事にでかけた後、気晴らしに外に出たときに、黒塗りの車から出てきたたくましい男たちに取り囲まれ、連れ去られます。
連れ去られたところは首相官邸でした。
そこにいたのは真垣首相、ではなく樽見正純でした。
加納慎策に強引に首相官邸まで連れてきた非礼を詫びるとともに、国難に対して力を貸してほしいと頼むのでした。
真垣総理大臣は蜂窩織炎という皮膚感染症になったという報道がありました。
報道では軽症ということですぐに復帰するため、国政に影響はないとのことでしたが、実際は非常に重篤な状態でした。
そこでソックリである加納慎策に暫くの間「ワンポイントリリーフ」として代役をやってほしいとうことでした。
慎策はことの重大さにたじろぎますが、政権を奪回した国民党はまだ盤石ではなく、真垣の病気が公表されてしまうと今の政局がどうなるか予断を許さない状況です。
樽見の方ではこれはお願いではなく、ほとんど指令のような形でした。
真垣には家族はおらず、この秘密を知っているものはわずかということで、大胆な替え玉作戦が実行されます。

感想

小説ですから、フィクションですし、この物語に登場する人物も当然架空です。
しかし、内容はまさに日本の政治そのものです。
国民党は言わずとしれた自民党のことでしょう。
民政党というのが当然民主党です。
この物語の序盤にも「憲政史上、はじめて政権をもぎ取った野党民政党だったが、高価なオモチャを与えられた幼児よろしくまともに機能せず、国民から失望と非難が集中した~」と書かれています。
こういった背景を噛み締めながら読むことによってこの小説は面白さ倍増です。
野党民主党にやらせてみようや~ということでやらせてみたものの、その後の国政はひどい状態になり、その反動によって、自民党が大勝してその後の安定与党となったのは現実とかぶります。
なので、読み替えてもらえればなお面白いのです。
とくにVS官僚では官僚そのものとの対決ではなく、官僚の手先となった族議員との対決です。
その族議員というのが身内、つまり国民党(自民党)というわけですね。
そして政党は違えど、族議員と言うのは野党にも存在しており、そういった点では呉越同舟するんですね。
もうなんのために国会議員をしているのかということですね。
それでもなりたての頃、国会議員を目指して理想をぶちまけていた新人の頃はほとんどの政治家には自身の政治に対する理想はあったのでしょう。
しかし、政治の世界に入ると理想では人は動かない。
現実は理想とは違い、ドロドロとした汚いやり取り、裏切りなど「伏魔殿」のようなところで、すぐにそれらの青臭い理想論はくじかれ、いつしか政治家で居続けるための政治屋と成り果ててしまうのでした。

この小説では政治家としての欲がない、無欲の青臭い人間がそのまま総理大臣になってしまうストーリーで、痛快です。
VS野党でもその切れ味は素晴らしく、政権を失っても政治家である野党議員をバッサリと斬ってくれます。

経済政策についても小説なりにわかりやすく書かれています。
もちろんマクロ経済やらマネーサプライやらそのあたりの言葉を見ているだけで気分が悪くなってくるような人には向かない小説ですが、わかりやすく書かれているので、これまであまり興味がなかった人も読んで見ることで日本経済に興味を持ってもらえるのかな?と思ったりします。

明るい真垣内閣なのですが、黒い部分も出てきます。
おそらく手を回しているのは官房長官筋なのですが、同棲中の玉緒が失踪した慎策を警察に相談します。
そこで富樫という有能な警官が捜査にあたってくれたのですが、富樫も富樫の知り合いの検察官も昇格したので栄転という扱いにはなるものの地方へ飛ばされてしまいます。
また慎策が頼りにしていた学生時代の友人風間も口封じのためにイギリスへ出向させられてしまうのですね。

VSテロとなっていますが、この部分も日本という国が持つ特殊事情をうまく描いています。
アルジェリアにある日本大使館をテロリストが占拠。
人質をとって立てこもり、一人ずつ惨殺するという最悪の状況です。
テレビで放映される人質の日本人。
なんとか救出できないかと考えるのですが、日本政府は動くことができません。
慎策は総理大臣の独断で、自衛隊の特殊部隊をアルジェリアに派遣します。
結局慎策のやりかたで人質の多くは開放されたものの、自衛隊員と人質にも犠牲は出ました。
本来なら感謝されるべきところですが、この国の憲法をないがしろにしたということで与党内からも批判が相次ぐのですね。
このあたりは本当にそういう事態になってみないとわかりませんが、どういうことをやっても批判を受けるのが政治というものなのでしょう。
だからといって手をこまねいて問題を棚上げ、先送りを繰り返しているばかりでは何も物事が進みません。
ましてやタイムリミットが切られているこのようなテロからの要求があった場合、どのような対応ができるのでしょうか。
それらを批判する資格が誰にあるというのでしょうか。
このVSテロのことで内閣支持率は大幅に下落します。
最終的にVS国民ということで国民に信を問うのです。
慎策は法的には何ら拘束力がないにも関わらず、国民投票という手段に出ます。
その前に持ち前のスピーチの力で国民に訴えるのですね。

クライマックスが終わり、エピローグがあります。
このエピローグが素敵すぎて、涙が出てくるほどです。
本当にこの物語の主人公加納慎策は素敵な人です。
素晴らしいエンディングでした。

小説ですよね。

お気に入りのフレーズ

三年間の実験とやゆされる民政党時代。発足当時は清新な顔揃いと明る希望満載の公約に多くの国民が胸を躍らせたが、にわか仕込な分、メッキが剥がれるのも速かった。
とくとくと掲げた公約はことごとく戯言と化し、自信を持って打ち出した政策の数々は、志の高さに反比例して成果が低かった。再出の無駄を省けば、財源などいくらでも捻出できると豪語したものの、赤字国債は増える一方で景気はますます低下した。一年も経たぬ間に、寄り合い所帯の定めどおりに分裂騒ぎを起こし、官僚からはいいように操られ、国民からは呆れられた。それでも。せっかく奪取下政権を手放すのが惜しくて内閣を改造しまくり、目先を変え、言葉をかえ、散々しがみついた上に遺した置き土産が消費税増税だったのだから、もはや笑い話にもならない。


政治は理屈だけで動くものではない。
外野で正論だけを吐き続けていた彼らには、それが全然理解できていなかった。政治というのは正しさの追求ではない。意見が対立するものと擦り合せ、妥協し、着地点を決めることです。正論は正しいが、正論を振りかざすことは全く正しくない。

国会議員には任期がありますが、官僚は定年退職になるまで行政を司り続けます。退職した後も関連法人に天下り、およそ貢献度からはかけ離れた給料やら退職金やらを貪り続ける。~~彼らは、自分たちのカネを吸い上げるために権益を拡大し、天下りの受け皿を多くしようと日々奔走しているのですよ。

 

オススメですね。

 

 

 

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