悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

何者 朝井リョウ

暑い日が続きますね。
職場ではクライアント作である社員様はすでに夏季休暇期間に入っています。
ただし、私たちは年中無休。
シフト制によって毎日誰かが仕事をしています。

 


通勤時に読んでいた朝井リョウさんの「何者」という小説を読み終えました。
Amazon Prime Videoでも公開されているので、読後の余韻の続きということで映画も見ました。

佐藤健さん主演、有村架純さん、菅田将暉さん、二階堂ふみさんが就職活動をする話ですが、笑いはありません。

朝井リョウさんの作品は読んだことがありませんが、映画「桐島。部活やめるってよ」の原作者であり、初めてという気がしません。
「桐島~」も笑いのある映画ではなく、どことなく嫌~な感じの残る映画でしたが、映画の作り自体はとても良くできていて、何度も見ましたね。

 



キャスト

二宮拓人/にのみやたくと 佐藤健

神谷光太郎/かみやこうたろう 菅田将暉

田名部瑞月/たなべみづき 有村架純

小早川理香/こばやかわりか 二階堂ふみ

宮本隆良/みやもとたかよし 岡田将生

サワ先輩/沢渡先輩 山田孝之

烏丸銀次/からすまぎんじ ???

 

あらすじ

就職活動を舞台にした4人組の物語。

御山大学の同期の神谷光太郎と一緒に暮らすことになった二宮拓人。
拓人は演劇のサークルに所属、光太郎はバンドのサークル。
拓人が好意を寄せていた田名部瑞月は光太郎と付き合っていました。
学生時代はそれぞれ自分のサークルで楽しんでいました。
拓人は演劇のサークル「劇団プラネット」で意気投合した烏丸銀次とともに一緒に作品を作り上げて来ました。
将来は一緒に演劇で食っていこうと言い合っていたほどの仲ですが、拓人は就職を目指します。
銀次は大学を辞め、新しい劇団を自分で作り上げていきます。
二人で考えていた劇団名の「毒とビスケット」という劇団です。

普段の拓人はバイトと就活の生活。
バイトは先輩で銀次のこともよく知っている沢渡、サワ先輩から紹介されたところです。
サワ先輩は、理工学部の大学院で、就職活動よりも卒業が大変。
サワ先輩自身の就職は研究室の推薦で内定します。
サワ先輩のアパートには拓人もよく泊まらせてもらったり、愚痴を聞いてもらったりしています。


留学していた瑞月が帰国。
ちょうど光太郎がバンドの引退ライブのときに最後のステージを見納めるためにやってきたのです。
瑞月も就職活動を始めます。
留学生同士の交流で知り合った小早川理香が拓人たちが住むマンションのちょうど上の階に住んでいることがわかり、瑞月を通して知り合いになります。
就職活動をする4人(拓人、光太郎、瑞月、理香)の合同就活事務所として彼らのマンションでよく集うようになります。
理香は付き合い始めて3週間しか経過していないが同棲を始めており、相手は宮本隆良。
隆良は就職を否定し、クリエイターとして様々な批評をネットでつぶやいています。
同棲している理香も留学しての帰国で、様々な学生活動の肩書を常にアピールしているのでした。
そんな隆良と理香のカップルを見て、光太郎は何気なく口頭で「ダサい」といいます。
同じように感じていた拓人は、ツイッターで彼らをネタにつぶやいていくのでした。

就活は楽しい作業ではありません。
それを正直に打ち明ける光太郎。
ところが彼はコミュニケーション能力が高いのか、順調に就職活動をこなしていきます。
肩書をアピールし、前向き発言を繰り返す理香は就職活動の見本のような活動を繰り広げますが、狙っているところは大手企業ばかりということもあり苦戦。
一方の瑞月はグローバルな仕事という夢を諦め、現実的に「就職」することを決断。
その理由は自分の母が父と別れて、一緒に暮らすことになったためでした。
瑞月の内定祝いの席で、理由を知っている拓人はともかく、理香と隆良は瑞月の選んだ「エリア職」を蔑むような発言をします。
瑞月は逆に、就職する人間を小馬鹿にしている隆良を批判して飛び出していきます。

光太郎はついに内定を得ます。
そして光太郎の内定祝いは拓人のバイト先のお昼はカフェで夜はバーになるお店で行われました。
そこでも光太郎は持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、たちまち溶け込んでしまいます。
そんな中、サワ先輩は長年の付き合いのある後輩の拓人を観察しています。
サワ先輩は、SNSなどはしません。
人間の判断はそういったもので何がわかるんだと思っているようです。
そして銀次と隆良を同じタイプの人間だと決めつけていた拓人に警告します。

拓人は合同就活事務所となっている理香の部屋にプリンターを借りるために行きます。
そこで見た理香のパソコンの検索履歴は瑞月の就職内定先でした。
一方、理香は拓人に借りたスマホを見て、言うのです。
いつも冷静に観察者、分析者として人を批評し、別のアカウントでそれをつぶやいている拓人のことを批判します。
拓人は心のなかで反論しようとしますが、言葉が出てきません。

サワ先輩に忠告され、理香にもきつい言葉で批判されました。
隆良は、就職活動をすることになりました。
就活の先輩である拓人に、色々と教えほしいと言われてしまうのでした。

拓人の就活は続きます。
面接で、はじめて作った自分=嘘ではなく、本音を語った瞬間でした。
拓人はその面接は落ちてしまいましたが、明らかに以前とは違う自分を見つめることができるようになっていきます。


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感想

まずは本について。
直木賞受賞作品だったのですね。
大衆文学に送られる直木賞は面白いと言われていますが、この本自体は、面白い本というのではないです。
笑えるシーンなどは皆無ですし、大学生の就活というものを綺麗事ではなく、どす黒い本音をSNS(主にツイッター)でぶちまける何とも嫌~な物語です。
ツイッターなどSNSでのどす黒い物語としては、「白ゆき姫殺人事件」を思い出してしまします。

 



 


主人公の二宮拓人はルームシェアしている光太郎の元彼女である瑞月に想いを寄せています。
何の前知識もなく読み薦めたので、序盤は就活を舞台にした5人の恋愛物語なのかな?と思ったくらいです。
もちろん若い男女の物語で恋愛要素はありますが、恋愛はついでに描かれているだけで、就職活動という人生において大きなイベントを迎えた大学生の苦悩を描いています。

私自身、かなり昔の人間ということに加え、マトモに就職活動を舌経験がありません。
とりあえず大学を卒業して就職はしましたが、3年目に家業に舞い戻っています。
就職のときに面接官から「腰掛けか?」と嫌味を言われましたが、結果としてはそう取られても仕方がないですね。
学生時代から家業でアルバイトしていましたので、どこかで甘えが会ったのは間違いありません。
娘の就職活動を見ていて、改めて仕事を得るというのは大変なんだと思いましたし、そこまで大変な思いをして就職した新卒というものはやはり企業では貴重に扱われているのでしょう。
やはり大手会社の社員となんとか見つけてきた仕事では待遇には大きな差があります。
苦労して入社した会社ですが、3年以内に離職する人が3割ほどいるらしいです。
3年を長いと見るか短いと見るかということはありますが、人材というものを

この本、映画は就職活動が舞台となっているのでそればかりを注目してしまいますが、同時にSNS、特にツイッターで人のことを批判するということに対しての警告でもあると思うのです。
SNS疲れという言葉があるように、大人となるに従い、人付き合いというものが発生します。
リアルでも疲れるけれど、SNSでも疲れているわけです。
どこかで本音をぶちまけたい、それを実現するための匿名のSNS
そういう批評家、評論家のような姿勢で虚栄をはっている人たちは、実は実務家ではなく、一歩を踏み出せない臆病者であることがわかります。

コミュニケーションを取るのがうまい、そういう陽性のキャラクターである光太郎と、クールで頭が良さそうに見える拓人。
ぜんぜんタイプの違う二人ですが、ウマが合うのか、波長が合うのか、同居人として良い関係だと思います。
しかし、本当に本音で打ち解けることができるのは、この映画には登場しない烏丸銀次だったのでしょう。
自分と違う方向に進む銀次を応援するということができず、批判から入る人間。
本音でいうと銀次のような生き方がしたかったはずの拓人ですが、彼にはその勇気と行動力がなかったのです。
銀次の舞台を見て、素直に元親友の活躍を喜ぶことができるようになった拓人は、就職という荒波もきっと超えていけることでしょう。

この物語のからくりは、ネタバレになりますが、最後の方でしっかりわかります。
彼らは全員留年しているのです。
事情は様々。
バンドの活動で勉強をしてこなかった光太郎は単位不足。
瑞月と理香は留学でした。
隆良は休学していた期間がありました。
元親友の銀次は大学を辞めて、劇団を立ち上げています。
サワ先輩は大学院。
では、拓人は?
就職浪人のようなのです。
拓人だけが就職活動2年目なんですね。
就職活動をはじめて、内定をもらえた光太郎と瑞月。
昨年1年間就職活動をして1件も内定をもらえなかった拓人。
そして2年目の今も内定はもらえていないのですが、確実に変わろうとしている姿を持ってエンディングとなっているのが救いです。

この本を読んで、映画を見た人の中には、面白くない、痛いという評価がたくさんあります。
その部分は同感。
しかし、そこに気づいて、改めることができた主人公なので、実は奥が深いハッピーエンドの物語として考えたいですね。

この小説、映画を暗い気持ちで、シニカルに見てしまうと、ただそれだけの物語として片付けられてしまうでしょう。
あるあるって言葉で片付けるにはあまりに痛すぎる物語です。

就活生にオススメとか言うのは嘘でしょう。
就活生は、このような本は読まないほうが良い気がしますね。

今の若い人たちの就職活動というものが果たして正しのか?という気持ちにもなります。
それは大学生側にもいえますが、採用側の企業にも言えることですよね。
働く動機は色々あるけれど、初めから強い動機を持って働く人ってどれくらいいるんでしょう。
とりあえず、働かないといけないから就職をする。
そして働きながら、学生時代では得られなかった経験もする。
そこで厳しく鍛えられ得ることもあれば、「違う、そうじゃない」と悩んで辞めてしまう人もいますよね。

SNSの闇という部分もこの小説、映画では描かれています。
恐ろしいですよね。
人間がどんどんエグく、醜いものになっていきそうです。
最も知られたくないのが、検索窓に残る検索履歴と言われたりします。
以前読んだ「ウィザードグラス」という小説はそういったテーマでのミステリーとなっています。
そちらも興味のある方はオススメです。

 


 

 

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