悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

公安狼 笹本稜平

刑事モノのドラマや小説はそれこそたくさんありますし、警察、殺人事件といえば捜査一課ということで目立つ存在です。
ところが公安と言うと、あまり目立ちません。
何をやっているのかわからないと言うのもあります。
またその仕事の内容からも目立って活動してはいけない気もします。

戦前の特高特別高等警察)というものの存在が、公安をより気持ちの悪い存在としているのもあります。

いずれにしても普通に生活している一般の人にはあまり馴染みのない公安警察
あくまで小説ですが、小説を通して知ることができる公安警察ですね。

格好いいカバーですね


あらすじ

唐沢龍二は理系の大学だったが、映画のサークル「グループ・アノニマス」で知り合った吉村久美子と意気投合。
そして恋人関係になります。
そのサークルはいろんな大学からの寄せ集めでしたが、お互いを映画スターの名前にちなんで呼び合うということでした。
唐沢はレオナルドと呼ばれ、久美子はケイトと名乗っていました。
そしてこのグループのリーダー各はハンクスと名乗る男でした。
唐沢は映画そのものよりも、現在の政治や社会のシステムの話題が多く、また爆発物に妙に興味を持っていることから、このグループが怪しいと考えていたものの、久美子と会えるというので参加していたのでした。
唐沢は怪しいこのグループに気を許していませんでしたが、知的で真面目な久美子は次第にのめり込んでいきます。
そしてハンクスとホテルに入る久美子を見て、幻滅してしまいます。
自分を怪しい組織に引き込むためにはめられたと思っていたのです。
その後、久美子は大学を中退していたことを知ります。
そして突如かかってきた彼女からの電話。
彼らに殺されるかもしれないとの告白。
その後爆弾テロ事件が起き、久美子に呼び出されていた唐沢も巻き込まれるのです。
久美子を助けられなかったことで自責の念に悩む唐沢。
そして、このグループに参加していたこともある唐沢も重要参考人としてマークされますが、その中にいた高坂刑事は唐沢の心にある、犯人ハンクスに対する復讐の気持ちを唐沢を公安の人間としてスカウトするのでした。

このようにして公安警察の人間として働くことになった唐沢です。
唐沢は公安の上司として高坂戸の強いパイプがある一方、唐沢を目の敵にする刑事がいました。
井川という刑事です。
ベテランで、色々素行にも問題がある刑事でした。
公安警察という特殊な立場上、様々な秘密があります。
また怪しい人物との付き合いもあり、情報提供者として彼らとの付き合いがあることは黙認しているというところがあるのです。
井川のたび重なる嫌がらせがあったものの、試験をパスした唐沢は先輩の井川よりも立場は上司になります。
しかし井川はそういったことは全く意に介する事なく、ことごとく唐沢に逆らうのでした。
そんな折、東京でまたしても爆弾テロが発生します。
犯人は安村直人。
安村はハンクスを知る人物であることがわかります。
唐沢は安村を確保し、そこからハンクス逮捕への希望を持つのです。
安村との必死の対話で懐柔を試みる唐沢でしたが、キャリア組の警察上層部のゴリ押しで、強行突破を試みるのです。
結果は犯人である安村は自爆します。


感想

笹本稜平さんという著者のことは知らなかったで、初めて読む作品です。
始めてですが、ちょっと長めの小説。
電子書籍なので、本の厚みを感じることはできませんが、いつも読んでいる文字サイズだと400ページを超えるボリュームがあります。
長めですが、大変面白く、特に終盤の展開はスピード感溢れ、読み応えはあります。

公安警察の小説と言えば、福井晴敏さんの小説「Op.ローズダスト」を読んだことがありますが、通常の警察、刑事者とは異質ですね。
刑事警察では事件が起きてしまってからの捜査なので、犯人を検挙すればヒーロー、という単純な図式。
一方公安警察では事件が起きてからでは遅く、事前に事件を防ぐためあらゆることを行っているという組織です。
それぞれの警察には言い分があり、刑事警察と公安警察の仲の悪さも含めて、この小説でも語られています。

まあ、組織が違い、目的も体制も違えば、考え方そのものも違うので、お互い協力してと言うのは難しいのかもしれませんが、卑劣なテロに対する対抗措置とすれば、かなり強引な手法も取り入れる必要があるのかもしれません。

日本はスパイ天国と言われるくらい公安警察の力が弱い気がします。
もちろん公安のイメージは悪いです。
戦前の特高のイメージが未だに抜けきらず、マスコミとの関係もよくはありません。
しかし今やマスコミが最も信用出来ない気もします。
マスコミの裏に潜むスポンサーというものをしっかり見極め、その情報のバイアスを考慮する必要があると思いますね。

ちょっと話が脱線しましたが、公安警察に興味のある方は楽しめると思います。

 

 

 

 

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