悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

プロパガンダゲーム 根本聡一郎

最近の暑さは異常ですよね。
6月、梅雨の時期にも関わらず連日猛暑日のところもあります。
そしてその梅雨も思ったほど雨はなく、近畿地方でも梅雨明けとなりました。
14日間とこれまでで最も短い梅雨の期間であり、最も早い梅雨明けとなるなど記録的な天気となりました。
そしてこの猛暑。
今年の夏は恐ろしい事になりそうです。
エアコンが職場でも自宅でもフル稼働し、電力の需給状態が逼迫。
ロシアのウクライナ侵攻による影響での燃料の高騰、円安のダブルパンチで電気代の負担増なども心配です。
そして短い梅雨のため、水不足も心配ですよね。

 

さて、通勤時に読んでいた本、「プロパガンダゲーム」の紹介です。
リアル本は最近滅多に買わないので、こちらの本も電子書籍
私のKindle Paperwhiteも6年目となり、結構バッテリーがヘタってきましたが、まだ急にスコーンと電源が落ちるようなこともなく頑張ってもらっています。

 

 

この本の目次

  1. 宣伝と戦争
  2. 官邸
  3. アジト
  4. 広場と扇動
  5. 軍事演習
  6. 平和国家
  7. 係争地の住民
  8. 正体
  9. 中間投票
  10. 醜聞
  11. 波風
  12. 異変
  13. スパイ
  14. 演説
  15. 事件映像
  16. 市井の人
  17. 真実
  18. 最終投票
  19. 傍観者
  20. 隠れ家
  21. ジャーナリズム
  22. プロパガンダ
  23. 勝者

登場人物

政府チーム

後藤正志(ごとうまさし)
東皇大学法学部。
ボードゲームが趣味。
序盤から政府チームの中心的な人物となる。
後ほど父は代議士であることが発覚する。
そしてそれは彼の人格にも影響を与える。
国益という言葉を使うなど上から国民を見ているところがある。


椎名瑞樹(しいなみずき)
和瀬良大学商学部
ESSサークルのディベート部。
旅行が趣味。
ハンサムでディベート部というだけあって話すのは得意。
彼は政府の広報官となる。


香坂優花(こうさかゆうか)
奥州大学教養学部
セツルメントサークル所属。
野球観戦が趣味。
論理的ではない。
織笠藍とともに軍服のコスプレ「You & I」で市民の評価を得る。

織笠藍(おりがさあい)
学道院大学文学部。
現代視覚文化研究部に所属。
趣味は読書。
人見知りする性格で、存在感が薄い。
2つ歳上ということもあり、冷静な「大人」。

 

レジスタンスチーム

今井貴也(いまいたかや)
和瀬良大学政治経済学部
バックパッカーとして世界を旅してきた。
レジスタンスチームを仕切っていく。
バランス感覚に優れているリーダータイプだが、正義感の強い樫本とは合わない。

国友幹夫(くにともみきお)
慶耀大学経済学部。
趣味は映画鑑賞で、スパイアクションを好む。
そのためスパイでは?と疑われることもあるが、その知識が役立つ。

越智小夜香(おちさやか)
立身館大学経営学部。
マーケティングを専攻し、広告戦略についてすでに学んでいる。
このチームの参謀的な役割を担う。
趣味は演劇鑑賞。
関西弁。

樫本成美(かしもとなるみ)
慶耀大学総合政策学部
社会学を研究し、クィア理論に関心が高く、戦争は絶対反対。
頑固なところがあり、空気を読むということをしないタイプ。
正義感が強い。
政府の広報担当に対抗するために彼女はレジスタンスの顔となる。

 

あらすじ

広告代理店の最大手、電央堂の6次試験は最終試験で、この試験をパスすれば内定をもらえる状況です。
今回集められた学生は8名。
彼らに電央堂マーケティング局のトップである渡部が、最終試験についての大まかな説明をします。
最終試験はプロパガンダゲーム。
このゲームを通して資質を見て採用するということです。
このゲームに挑む学生たちへのアドバイスとして
あらゆる手段を用いて人々に訴え、顧客を支持する世論を作り上げる。これが宣伝という仕事だ。」
という言葉を残します。(この言葉は後々大きな意味を持ってきます。)
その後、このゲームの細かい説明は人事部の狐のような男性山野とマネキンのように無表情な女性の石川が行います。

プロパガンダゲームとは、政府チームとレジスタンスチームに分かれ、架空の国パレット国の100名の国民が戦争に賛成するか、反対するかを争わせるという内容でした。
パレット国が戦争をしようとしている国はイーゼル国で、この国はパレット国よりも大きく人口も多いのです。
時間、資金、情報も管理されており、政府とレジスタンスではそれぞれ条件も違います。
国民はこのゲームについて無作為に選ばれた100名。
公平を期するために20代30代40代50代60代の男女で均等に構成されており、男女構成比も50%づつとなっています。

両国の紛争のきっかけは両国の間にあるキャンバス島の領有権でした。
我が国固有の領土であるする政府側はそのためにイーゼル国との戦争を国民に理解してもらうことです。
一方レジスタンス側は、戦争という手段に出る政府に抵抗し、国民投票戦争賛成とならないようにすることです。

国民投票まで2時間という時間を使って情報戦を制するために、政府側、レジスタンス側には情報を流すことができますが、それぞれ画面の1/3歯科利用することができません。
しかし、特別な「扇動」というアクションを取ることができます。
この扇動にはプロパガンダ・ポイント、通称PP(お金)が必要で、扇動の間は画面を専有して自分たちの有利な情報のみを流すことができます。
そしてこの扇動のときには普段使えない動画、映像を使った発信を行うことができるのです。
動画、映像の情報の取得にもPPが必要で、情報を購入し、加工して扇動するというのがとても大切なポイントになります。

しかし政府側とレジスタンス側は条件が違います。
潤沢な資金を持つ政府側は2000PP。
レジスタンス側はその半分の1000PP。
扇動アクションには1秒1PP消費します。
1分間の扇動アクションには60PPが必要ということになります。

一方PPが少ないレジスタンス側には政府側にない市民アカウントというものがあります。
その市民アカウントというものを使って広場(SNS)で市民として投稿することができるのです。

そして4人ずつに分かれた2つのチームにはスパイがそれぞれ入り込んでいます。
つまりは政府側4人の中にはレジスタンスのスパイがおり、レジスタンス側にも政府のスパイがいるということです。

彼らは100名の大衆、国民に対していかなる宣伝広告を行い、自軍を有利な状況に導くことができるのか?

 

感想

この本に登場する会社や大学は架空のものですが、誰が見てもこの広告代理店が電通であることはわかります。
大学も東京大学早稲田大学、慶応大学、学習院大学立命館大学ですね。
奥州大学というのがピンときませんが、東北にあるのでしょうか。
一応小説であり、フィクションなので変な誤解を生まないように伏せ字にしないとまずいという配慮ですが、読者としては実名のほうが読みやすいですし、脳内では勝手に変換して読んでいます。

プロパガンダゲームはわずか2時間の情報戦ですが、就職試験にしては大掛かりすぎるということに気づいた学生たち。
そして彼らが最終的に起こしたアクションがこの後にも続いています。
「ウィザード・グラス」という作品も読んだのですが、そこにもつながっていくわけなんですね。
巨大なIT情報企業による支配に抗うジャーナリズム。
それを作り上げていくことになるのです。
今にして思えばここにその原点があったのか、とちょっと感動。
「かっけぇ~」って感じですね。

 

この「ウィザード・グラス」という作品も掛け値なく面白かったです。
もちろん小説ですが、今やテクノロジーはこの小説を笑えないレベルまで来ていると思います。
興味のある方はぜひ読んでもらいたいですね。

しかし著者である根本聡一郎さんの代表作は今回の作品である「プロパガンダゲーム」でしょう。
その反響で漫画にもなっていますし、舞台化されているそうです。
そのうち映画化なんて話にもなるかもしれませんが、チープな映画にならないことを望みます。
同名の映画「The Propaganda game」というものもありますが、それはスペイン人が撮影した北朝鮮ドキュメンタリー映画です。
そちらも重そうですね。




脱線しました。
ともあれ、若い著者である根本聡一郎さん。
すごいですよね。
これからも面白い作品を出し続けてもらいたいですね。
今読んでいる「人財島」も目が離せません。
根本聡一郎さんは、1990年生まれですので、私の娘とそんなに変わらない年齢です。
就職せずに大学院へ行こうと思っていたそうで、そこで教授から研究者には向いていないという言葉を、自分で小説でも書いたほうが良いと「曲解」したことがきっかけだとか。
いずれにしても大学院で研究をしていたらこれだけ面白い作品が世の中に出てこなかったわけで、アドバイスした(暗に研究室を断った)先生の手柄とも言えますね。

note.com

 

またまた脱線ですね。
すみません。
最初は戦争するかしないかをかけた国民投票で戦争したい政府とそれを阻止するレジスタンスの模擬戦と聞いて、なんだかかったるいなあとか思いながらも、読み勧めていくうちにハマっていくんですね。
それぞれ学生にも立場や考え方に違いがあり、口論にも発展しますが、時間が限られています。
時間を浪費するほど無駄なことはなく、彼ら優秀な学生はそれを熟知しており、すぐに切り替えて有益な議論へと発展させていきます。
本当に電通の就職戦線を勝ち取っていく学生とはこんなふうに優れた人間なのでしょうか。
すごいとしか言えませんね。
私のようなおっさんは、情報機器を使って短い時間内に適切な広告宣伝を通して市民感情を動かしていくなんて芸当はとてもできそうにありません。

そしてネタバレになるのですが、政府と広告代理店の強い結びつきがまたポイントになっています。
政府の広告を引き受けている広告代理店。
現実に日本政府、与党の宣伝のために電通が動いているわけで、まさに政商ですよね。
宣伝には明らかに宣伝であることをわからせて行うものと、宣伝と気づかせずにこっそりと行うもの、ステルスマーケティングなどもそうですが、そういったものがあります。
この話の中でもSNSを利用した市民の誘導があります。
レジスタンス側は資金が少ないけれど、SNSに投稿することで市民感情を誘導してくんですね。
確かに一つの投稿をきっかけに炎上したり、大量のイイねやリプライによって拡散していきます。
そのあたりのやり取りもこの小説の面白さとなっています。
SNSのやり取りが面白かったのは「ウィザード・グラス」も同様ですが、湊かなえさんの「しらゆき姫殺人事件」もうまくそれらを使っていましたね。

 

 

 

少し前に苫米地英人さんの「洗脳広告代理店 電通」というものを読んでいたことも会って、余計に興味も出てきましたね。
この本もオススメです。

 

この「プロパガンダゲーム」にはザイオンス効果だの、ロングテール戦略からブロックバスター戦略への移行だのマーケティングの世界ではよく使われる言葉も出てきます。
流石に広告代理店のトップである電通に就職しようとしているエリート学生という感じですね。

そして1チーム4人しかいないわけですが、そのうちの一人が「スパイ」なのです。
このスパイという劇薬をいつ使うのか?というのがスパイの役割。
一度しか使えませんが、内部崩壊させる爆弾のようなもので、そのタイミングがまたすごいところです。
大どんでん返し~!という言葉が出てきそうなほど後半にかけてスパイのシーンも見どころなんですね。

 


気に入ったフレーズがいくつかありましたので、メモ代わりに記録しておきます。

「30代以上は女の子じゃないだろ」
反射的にそう返答する。いつまでも「女子」だなんだと言って、お姫様扱いされたい人間が多すぎる。そういう「女子」を許す背景の風潮にも辟易していた。

論理的な思考だけでは、多数派は取れない。香坂のような、他人の感情を重視して物事を考える人間の意見が、このゲームで重要なのは明らかだった。

「まあ、現状維持のほうが楽やからな。よっぽどのことがない限り、『何も変えない』って選択する人間のほうが多いんよ」

「例えばな、口では『差別反対!暴力反対!』なんて言いながら、『差別する人間は死刑にしろ!』って平気で言えるのが市民感覚だよ。そういう感覚から出てくる美辞麗句はな…曖昧で、矛盾しがちで、簡単に定義が変わる」

「ただ、最近世界で起きた戦争は、みんな平和を大義名分にはじめてるよね。『独裁者の打倒』だとか、『大量破壊兵器の除去』だとか、その都度仕立ては違うけど、みんな平和のために戦争が必要なんだと国民を説得して、それが受け入れられて戦争が起きている」

「平和って言葉を繰り返すことあ、結果的に戦争を引き寄せることもある」

「国連の平和維持軍がいた。実際見るまではさ、平和維持軍って単語自体、平和なのに軍隊ってムチャクチャじゃねえかと思っていたんだけどな、見たら安心しちまった。この人らが守ってくれるんだって思ってさ。ゴツい銃を持ってて、はじめはビビったけど…安心感のほうが大きかった」

「平和ってのは、ものすごく抽象的な概念なんだよ。屈強な軍隊を並べられて『彼らはあなたの味方です』って言われたほうが、鳩の絵を一枚見せられて、『祈りましょう』なんて言われるよりはずっと安心するだろ。平和のために武力が必要だって認識を国民に浸透させれば、戦争に持っていくのは…そんなに難しいことじゃない」

政府と反政府勢力がお互いに武装した結果、部族間の小さな諍いが、国を巻き込む内線になってしまった。

マーケティングの世界やとね、選挙は先に争点を設定できた側が勝つってのが常識になっているんよ。投票するための判断基準を、自分で国民に提供してまう。そうすると、その基準を土台にして国民が考えてくれるようになる」

選挙でも商売でも、基準を自分で作って、そのルールを「そういうものなんだ」と信じ込ませることができる人間が一番強い。

正論で説教されるのを好むやつはいない。ネットでも現実でも正論で負かされた相手から返ってくるのは「私が間違っていました」という謝罪の言葉ではなく、「ぶっ殺す」に近い罵倒の言葉だ。

「賢い私が、馬鹿なあなたたちに正しいことを教えてあげる」なんて態度は、一番嫌われる。言っていることが正しかったとしてもな。

「どのような結果が出たにしろ、このシステムの中では、その結果が正解です。正解をおかしいと思うなら、システムを変える努力をすることです。嘆くだけでは、現実は変わりません」

拾ってきた他人の生活から毒気を抜いて、防腐剤を注入して芸能人の皮で加工してやる。そうして生産されるCMや番組が、自分たちの食い扶持になっている。

リアルとリアリティは違うんだ。一般人が求めているのは、リアルじゃない。自分に都合の良いリアリティなんだよ。

ゼロサムゲームを続ける限り、行き着く先は戦争なんだよ。それを止めるためには、分け合うって発想が必要になる。

所属する一人一人が望まなくても、トップが決定すれば、組織はその仕事を進めなくてはいけない。国友は、個人が信用できたとしても、組織は信用できないと言いたいらしかった。

最高の愛国心とは、自国が不名誉で、悪辣で、馬鹿みたいなことをしているときに、それを言ってやることだ。

ジャーナリズムとは、報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは広報にすぎない。

民放の報道番組なんてのはあくまでポーズで、スポンサー企業と広告業界が許してくれる内容だけを流す娯楽番組というのが実際のところだ。

短所を見つけて言葉にするのは、長所を言語化するより、ずっと簡単なんだと思う。自分の良いところを見つけるのを諦めてしまった人たちが、相手の短所だけを見つけて「宣伝」する。

 

メモ終わり。

 

最後に、この物語に登場する石川さんのような電通社員が出てくることを期待します。
長いものに巻かれているうちにいつか麻痺してしまって、気がついたときにはすっかり毒されてしまってからでは遅いのです。

 

 

 

 

 

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