悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

そして、バトンは渡された。 瀬尾まいこ

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前日に泣いてしまった若いオペレーターですが、翌日もちゃんと出勤してきたので、ホッとしています。
今は本当にくじけてしまう人、簡単にやめてしまう人が多いですからね。
まあ、職場はここだけではないので、辞めても他で働けますし、ましてや若い人ならいくらでも仕事はあるはずです。

ただ、面接で熱意を語っていても、そのときは面接用のコメントであって、人間すべてを見切れるものではありません。
履歴書などから経歴にも目を通しますが、果たしてどこまでが真実なのかわかりませんしね。

 

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さて、通勤でもスマホを見たりもするのですが、基本は読書タイムとしています。
あまり堅苦しくない軽めのビジネス書も読みますし、小説もジャンルに拘らずに読みます。

先日、村上春樹さんの「女のいない男たち」と言う短編集を久しぶりに紙の本で読みましたが、そのときに一緒に買ったのが瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」で、これもなかなか面白い本でした。

登場人物

優子
物語開始当時は高校2年生ですが、彼女の人生を中心に描かれているため、何度か子供の頃の話が出てきます。

 

森宮
優子の三人目の父。
東大を卒業し、一流企業に勤めるエリートサラリーマン。

梨花
優子の義理の母。
深く考えるよりもまず行動するタイプ。

泉ケ原
不動作業を営む裕福な家庭。
優子の二人目の父。

水戸
優子の実父。

 

早瀬
ピアノの才能があり、音大へ進学する。

 

向井
高校3年のときの担任。

 

 

 

 

あらすじ

森宮優子は高校2年。
家には義理の父との二人暮らしです。
大変真面目だけれど、ちょっと変わったところのある森宮さんは、優子にとって父親になりますが、お父さんとよんだことはありません。
森宮さんは義理の父親なので、血の繋がりがありません。
けれども優子にとっては、大切な「父親」であることに変わりなく、また森宮にとっても義理の娘とはいえ、とても大切にしています。

森宮優子となる前は泉ケ原優子でした。
そしてその前は水戸優子。
優子には父が3人、母が2人いた事になります。

 

そのためか、学校の先生はいつも優子に「哀れみ」の感情を持って接しており、何か困ったことがあれば、相談に乗ると言ってくれるのでした。

しかし当の本人である優子にとっては困り事なんて何もなかったのです。

いいえ、実はそれなりに困ったことはあるのですが、彼女は強かったのです。
様々な経験が彼女を強くしたのですが、幸いなことに、引き取られた人たちにとても可愛がられたことだけは事実で、優子もお世話になった人たちへの感謝の気持は忘れていません。

優子は幼い頃に実の母を亡くしました。
優しい父がいたので、優子は辛くても泣かずに健気に生きてきました。
小学3年生のときに梨花さんがやってきて、父と結婚します。
梨花さんはとても若くきれいな人で、優子にもとても優しい人でした。
父がブラジルに仕事で行くことになり、優子も連れて行こうとします。
ところが母の梨花が反対し、優子の判断に委ねるのです。
優子は幼く、義母の梨花との生活を選択します。

梨花さんは優子のことを大変可愛がってくれました。
しかし計画性がなく、父と離れて梨花さんと母子家庭となると、生活に困ることになりました。
手狭なアパートへ引っ越します。
健気な優子は、そこでも大家さんにも愛されます。

そんな優子でしたが、学校で聞いたピアノの音が忘れらず、ピアノがほしいと梨花に漏らすのでした。
梨花にはピアノを買う余裕も、ピアノを置くような家もありませんでしたが、梨花が働いているところの知り合いである泉ケ原という不動産屋の社長と結婚し、優子と一緒に暮らすことになります。
優子は自分がピアノを欲しがったばかりに、お金持ちの男性と無理やり結婚したのではないかと思っていましたが、梨花はそれのどこが悪いのか?という感じで気にもとめていませんでした。
泉ケ原乃家は立派な屋敷でピアノがあり、泉ケ原さんの亡くなった奥様が大切にしていたピアノで思い入れがあるのでした。
この家の娘となってからは金銭的には余裕があり、お手伝いさんまでいるので、細々とした用事をすることもありませんでした。
しかし義理の母である梨花にとっては居心地の悪い家で、梨花は出ていくのでした。
貧しかったけれど自由に暮らしていた以前の生活と比べると、窮屈なところは優子も感じていました。
梨花は家を出たものの、ちょくちょく顔を出して、優子と話をしてくれました。
そんな状態でも泉ケ原の義理の父は、変わらず優子を大切にしてくれていました。

梨花が次に連れてきた人は森宮というひょろっとした男性です。
梨花の同級生で同窓会のときに声をかけて結婚することになったというのです。
そんな梨花ですが、優子はあまりに梨花と合わない人に感じて、本人にもこの男性と結婚してもいいの?と思ったくらいです。
森宮と梨花と優子の親子3人で暮らしている期間はわずかで、梨花はまたしても失踪してしまいます。

森宮は気にすることもなく、自分は優子の父親として責任を果たすといい、実際にゆうこの生活やら食事やらを支えてくれるのでした。

感想

あり得るのだろうか、と思いつつ、なんとも不思議な物語です。
幼い頃に肉親を失うということも不幸なのですが、その後実父と離れ、義理の母、義理の父を転々とし、姓も何度関わるという人生を生きてきた主人公。
義理の父、継母などと言った言葉はこの物語には殆ど出てきません。

この本の中でも書かれていますが、先生は皆一様に「気の毒」に思っているわけです。
本人には実の親がそばにいないけれど、それに変わる素晴らしい親たちに囲まれて幸せに生きていると思っているんですね。
この物語に出てくる主人公を取り巻く親たちは全て、素晴らしい人達です。
かと言って全員が聖人君子ではありません。
特にキーマンとなる梨花さんはかなりハチャメチャな人です。
若くて美しい梨花さんは、かなりの変わり者です。
いくらでもモテたであろう人物なのですが、優子の父親である水戸秀平はかなり素敵な男性だったのでしょう。
そして一緒に暮らしてみると、子供である優子がまたとても健気で可愛らしく、また梨花にもとてもなついてくれるので、母性が目覚めたのかもしれません。
梨花はハチャメチャであるものの、すごく芯の強いところも持っていて、優子のためなら何だってやってやるという気合のようなものを感じます。
そんな梨花の意思を受け継いだように、彼女の再婚相手は「優子ありき」が絶対条件なのです。
というよりもむしろ、自分の再婚相手というよりも、とても可愛くて健気な優子が幸せになるために親になりませんかキャンペーンのようなものでしょう。
裕福は泉ケ原さんも、懐の深い人でした。
梨花の気まぐれも彼ならお見通しなのでしょう。
そして梨花の同級生の森宮もまた「優子の父親」となるために、彼女と結婚した人物。
だから梨花が出ていこうがどうしようが、自分は優子を育てるんだという気持ちが全面に現れています。
まあ、森宮の場合、かなり変わっていますけれど。
梨花が随分と若い女性ですから当然同級生の森宮も若い男性です。
クラスメートの中には、そういった点も男女の仲を疑うような嫌味を言う連中もいたりするのです。
この物語の中では女子高生の等身大の生活の部分も描かれていると思います。
女子高生同士のお友達付き合いで、優子はとても強いですね。
友だちといっても深い思慮を持っての発言ではなく、無意識に出る棘のある言葉も優子は難なく受け止め、それどころか友人づきあいのために気を使ったりするくらいです。
そういう優子を見ていた担任の向井先生はなかなか優れた先生ですね。
女子高生の恋愛といった点も当然出てきますが、高校時代に好きだった早瀬くんと結ばれることになるのがこの物語のエンディングです。
「最後の父親」として森宮は、早瀬に甘い顔は一切しません。
それどころか彼のことを「風来坊」と読んで一向に認めようとしないところなんかも、微笑ましいです。

最後に、優子が一生懸命書いていた手紙と実父水戸からの手紙をずっと隠し続けてきた梨花はやっぱり罪深いかな?と思うのです。
でも結果として優子が幸せになるには今の形が良かったのかもしれません。

エンディングの結婚式で、3人の父と一人母に囲まれて優子は幸せそうでしたね。

とってもよい物語ですね。
映画化もされているようですが、そちらは見ていません。
機会があれば、見てみようかな?と思っています。

 

 

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