悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

875 ヤマダマコト(新潟文学工房)

 新潟文学工房を営むヤマダマコトさんの本です。
「山彦」や「金色天化」シリーズのような長編ではなく、こちらの本は3つの作品からなる短編小説ですね。

 

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目次

875

犬畜生な私

月の虫送り

あとがき

 

内容

875

東京から新潟の新発田似引っ越しをしてきた祐子。
母の再婚のためにこの町へ引っ越ししてきました。
新しい街で友人ができるかどうか不安でしたが、結局彼女には心を許せる友人はなく、いつも旧棟と呼ばれる古い校舎のトイレに引きこもっていました。

そこで出会ったのは祐子よりも少し年上の優しい女の子でした。

祐子が5年生になり、体も大きくなった頃から義父の態度が気持ち悪くなってきました。
そしてクラスでは祐子の父が国道にあるアダルトショップに入っていくのを見たとのことで、色々と陰口を叩かれることになったのです。

家では義父がいつも待ち構えているのです。
母に相談しましたが、母は義父の見方でした。
祐子には学校も家にも居場所はなかったのです。

祐子の気持ちをくんだハナコさんが、義父といじめっ子たちに仕返しをします。

祐子はそれがとても嬉しいことでしたが、ハナコと祐子は入れ替わってしまうのでした。
祐子はハナコとして存在し、ハナコは祐子として生きていくのです。
ごっこのように鬼が入れ替わったのです。
でも彼女は別にそんなことはどうでも良かったのです。
祐子出会った記憶も薄れ、母の顔もぼんやりしてきます。
この学校で助けを求めている子供を助けに行くことが彼女の役割なのです。

 

犬畜生な私

咲良と言う女の子が主人公。
両親は急に彼女に優しくなり、プレゼントをしてくれることになりました。
本当に欲しいものは別にありましたが、とりあえず子犬を買ってもらうことになったのです。
かわいいパピヨンの子犬でマークと名付けられました。

高校には気になるイケメン在原誠也がいました。
在原誠也は大の犬好きで、咲良の飼っている犬のことが気になるのでした。

中学時代からの知り合いの古川多香美は彼女の恋路のライバルとして立ちはだかります。

彼女には兄がいました。
兄はおとなしくゲームが大好きだったのですが、中学校で友人関係に悩み、引きこもりになってしまいます。
優しかった兄が変わったのは咲良が中学生になった頃でした。
兄は咲良の入浴や着替えを盗撮していたのでした。
更にその秘密を武器に咲良に対してさらに踏み込んでくる兄。
咲良は思い余って兄を殺してしまいます。
兄を埋めたまま、兄は失踪として処理され、発見されませんでした。

飼ったばかりの子犬のマークはとても可愛い顔をしていましたが、ふとその顔が兄に見えることがあったのでした。
徐々にマークの顔が兄に見えることが増え、とても一緒にいられなくなります。
咲良は子犬のマークを殺し、兄と同じく埋めてしまうのでした。

その後、咲良にはまたしても異変がありました。
ペットショップの犬たちが全て兄の顔に見えてくるのです。

彼女は誰にも相談できず、視界に入る犬を手当たりしだいに殺していきます。

恋のライバルである多香美から犬殺しの犯人であることを突き止められます。
そして在原誠也との間を取り持ってくれたら黙っておいてあげると言われるのです。
咲良は多香美を殺すことを決心します。

その後咲良は歩いている犬を見るとその顔が多香美の顔であることに気づきます。
咲良は在原誠也とまともな恋がしたかったのですが、在原誠也はついに振り向いてくれることがなく、できたばかりの彼女を見せびらかしているのでした。
咲良は考えます。
彼を自分だけのものにする方法を。

 

月の虫送り

祖母から特に可愛がられた関根圭吾は、大学卒業と同時に東京の商社に就職します。
しかし、その職場はなじまず、モヤモヤとした生活を送っていました。

そんなおり、祖母の訃報が届き、田舎へ戻ります。

祖母の葬儀で中学校、高校の同級生の鈴木美紀と再開します。
祖母は、絵本作家でもあり、人望もある人物なのでした。

田舎での短い滞在で、圭吾は、会社を辞めることを決心し、上司に伝えました。

祖母の遺したもののうち、執筆に使っていたノートパソコンをもらうことになりました。

そして小さな箱もあり、昔、祖母と「秘密の約束」をしたことを思い出します。

その中には「ソラ虫」という不思議な生き物がいるのです。

この秘密を他の人に話をすると逃げてしまうと言われていたので、祖母とだけ共有する秘密でした。

圭吾が子供の頃、祖母は、ソラ虫が幸運の虫であることと、三つの願いを叶えてくれることを教えてくれました。
そして残り一つの願いを残していることも。

祖母がソラ虫に出会ったのは1945年の夏。

空襲で母と妹を失った文学少女だった祖母は、ソラ虫に2つの願いを叶えてもらいました。

一つ目は、故郷を離れた安寧の暮らし。

二つ目は、自分の空有層を物語に仕上げる文才。

 

祖母は、ソラ虫のおかげで生きながらえてきたと圭吾に言っていました。

そして最後の一つは自分のいちばん大事な人のために使おうと思っているとも。

 

仕事を辞めた後、東京の生活を片付けました。
田舎では東京以上に仕事は見つかる状況になかったのですが、心は穏やかになっています。
そんなおり、圭吾はソラ虫を見つけ、祖母の遺したあの小さな箱に収めます。

彼は一つ目の願い事は、両親が安心してくれうるような安定した仕事でした。

翌日には、農協で職員を探しているという話が舞い込み、圭吾はそちらで働き始めることになりました。

二つ目の願いは、心の通い会える伴侶でした。

鈴木美紀と祖母の葬儀以来の出会いがあり、トントン拍子に付き合い始め結婚します。

三つ目の願いは、妻とともに考えました。

この田舎の将来、生まれてくる我が子のために平穏が続くようにと願うのでした。

祖母のパソコンは長い間放置されていましたが、ふと祖母の未発表の作品があるのではないかと思って起動します。

そこには「三番目の願い」という文章がありました。
作品のタイトルと思っていて読むと、それが作品とは違うものであることがわかりました。

ソラ虫について忘れかけていることです。
ソラ虫との願いは三つ叶えたあとは記憶から消えていくのです。

祖母は備忘録として書いたものでした。

そこには愛する家族、愛する下田の町、中でも特に目をかけていた孫の圭吾への思いが書かれていたのです。

ソラ虫の最後の願いは孫の圭吾の願いを叶えてほしいというものでした。

 

感想

どの話も適度に短くて読みやすかったです。

875?なんじゃこれ?と思っていましたが、読み始めてすぐに「ハナコ」と読むということがわかります。
トレイの花子さんの話ですね。

ちょっぴり怖いようなプチホラー作品です。

 

「犬畜生な私」は「875」と比べてかなり怖いお話です。
ただ、こちらはもともとホラーとして書こうと思っていたのではないような気もします。
結果はかなり残酷でホラー色も強い内容ですけどね。

残酷というか、救いようのない話です。
そういう話だけに印象は強いのですが、やや強引な気がします。
まあ、短い作品で書きたかったことはリアリティではなかったのでしょう。

 

「月の虫送り」は、ホラーではなく、美しいファンタジーです。

その前の「犬畜生な私」がかなりひどい話だったので、この話はずっときれいなお話です。

祖母から受け継がれる「気持ち」。
そしてそれをまた次の時代へと受け継いだ主人公ですね。

 

ヤマダマコトさんの本、いつも楽しませてもらっています。
軽めの作品もイケますね。

 

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