Kindleにて通勤電車内で読んでいたものです。
伊坂幸太郎さんの本は流石に売れっ子作家だけあって、とても読みやすくて、サクサク読めてしまいます。
この本の目次
第1章 マシュマロとハリネズミ
第2章 政治家と雷
第3章 炎とサイコロ
第4章 マイクロチップと鳥
登場人物
岸
主人公。
ある大手お菓子メーカーの広報担当者。
おとなしいけれど、辛抱強く、クレーム処理に関してはとても有能な社員。
池野内征爾(いけのうちせいじ)
都議会議員。
非常に腰が低く、人当たりがよい地方議員。
とても覚えにくい、書きにくい名前なので議員にとっては不利なのかと思ってしまう。
岸とは不思議な縁で知り合いとなる。
小沢ヒジリ
若者に人気のダンスユニットのメンバーの一人。
人気者だけに彼の一言によって、お菓子の売上が変わるほど。
運動神経もよく、人当たりも良い好青年。
岸、池野内議員とともに浅からぬ関係で、その関係は長年に渡って続く。
栩木(とちぎ)
岸と同じ会社の広報担当の係長。
非常に有能だが、その分大変な役回り、
小沢ヒジリをCMに抜擢したものの、間抜けな上司の尻拭いをさせられる。
クレームの電話をしてきた女性
この物語の取っ掛かりは彼女の電話から始まった。
頭の回転もよく、美人だろうけど、怖いタイプ。
後に彼女はとある人物の妻であることが発覚する。
今回のラスボスです。
動きのあまりないハシビロコウですが、不気味な雰囲気をまとっています。
すでに複数の殺しをしたことがあるような目つきです。
あらすじ
ネタバレも多少含みます。
老舗お菓子メーカーの広報部に勤務する岸はまだ若いですが、お客様サポートで顧客対応をしています。
ようやく離れることができたその部署にピンチヒッターとして招集されます。
クレーム案件は新製品のマシュマロに画鋲が入っていたということです。
折しも、人気ダンスグループのメンバー小沢ヒジリがその新製品のマシュマロをとても美味しいと言ったので、またたく間にヒットしたのですが、今度はその注目度が一気に逆風となったわけです。
クレームになった原因は不用意な相談員の対応でしたが、それに火をつけたのが出世ばかりを考えるダメ上司でした。
ダメ上司は岸が急遽作った対応マニュアルを忘れ、会見でまずい立ち回りを演じてしまいます。
岸はなんとかその上司をなだめすかしながら対応しようとするも、結局彼もこのクレーム騒動に取り込まれてしまうのですが、最終的にはクレーマーの女性の自作自演であることが判明したことで救われます。
池野内征爾という都議会議員が今回の自作自演のクレームの真相がわかり、謝罪にやって来ます。
彼の妻がひきおこした事件でした。
池野内議員は政治家だけあって非常に魅力的な人物でしたが、ちょっと普通の政治家とは違っていました。
そして岸に妙に興味を持ち、接近することになります。
ダメ上司の記者会見のまずさは奇跡的に逃れることができました。
しかし、彼はまたしてもやらかしてくれます。
マシュマロがヒットしたのは、CMタレントである小沢ヒジリの影響が大きかったのですが、彼の事務所とのやり取りでも失態を演じ、その事務所の社長を怒らせてしまいます。
ここまで地道に実績を積み上げてきた栩木(とちぎ)係長がその尻拭いをすることになります。
小沢ヒジリも不思議と岸に興味を持ち、そのおかげで最悪の状況は逃れることができました。
そんなことで岸、栩木係長は小沢ヒジリと浅からぬ関係を築くことになります。
その後、小沢ヒジリの招待するイベントで彼らは事故に巻き込まれます。
落雷のために交通手段である橋が壊れ、また濃霧のために救出にも迎えない状況でした。
そんなおり、そのイベントのサーカスにいたツキノワグマ2匹とトラ1匹が檻から逃走しました。
窮地に陥る岸と妻、そして栩木係長とその息子でしたが、小沢ヒジリの活躍と池野内議員の救出劇によって命を救われたのでした。
岸と池野内議員、小沢ヒジリは、年齢や出身地なども異なり、全く接点のない3人です。
3人はあったことがないのですが、同じ夢を見ているのです。
そして彼らにはそれ以外にも共通点がありました。
岸にとっては卒業旅行のときに泊まったホテルが火事になり、ようやく助かったと言う思い出があるのですが、池野内議員も小沢ヒジリも同じホテルに泊まっていたのです。
池野内議員が言うには、夢で起きていることと現実はつながっており、夢で相手を打倒した場合は、現実にもいい方向に事が運ぶというのです。
岸には夢の記憶がそれほど定かではないのですが、もうひとりの共有順ぶつのである小沢ヒジリも夢の世界で岸の活躍を見ているというのです。
これらの偶然から彼らはその後も仕事は違えど、互いに連絡はそれなりに取り合い、それぞれしっかりと人生を歩んでいったのです。
岸の妻は当時妊婦でしたが、今や生まれた娘の佳凜は女子高生になっています。
若者であった小沢ヒジリもダンスグループをやめ、今は俳優として活躍。
一方、池野内議員は都議会から舞台を国政に移しています。
そんな中、池野内議員は政治スキャンダルで現実世界で窮地に立ちます。
小沢ヒジリが言うには、夢で負けたからではないかと言います。
新型インフルエンザである鳥インフルエンザによってアジアで死者が出ましたが、未だ対岸の火事という状況でした。
池野内議員から直接連絡があり、会うことになりました。
彼がもしものときにと岸に残したメッセージ。
案の定、池野内議員には常に見張りがついている状況でした。
鳥インフルエンザを発端にした新型インフルエンザが猛威をふるおうとしている状況でした。
その病気に愛娘の佳凜が感染。
居ても立っても居られない状況です。
小沢ヒジリからも緊急のメッセージがあり、夢で3人がやられてしまったことを伝えるのです。
岸は娘のことが気がかりでそれどころではありませんでしたが、やはりこの世界は夢の世界と何らかの関係があることが実感としてわかってきました。
かれは池野内議員の元妻、つまり自作自演のクレームを付けた女性に救われ、池野内議員の伝えようとしたメッセージの意味を知ります。
池野内議員は政治経済の裏の舞台で繰り広げられる新型インフルエンザのワクチンを巡って、戦っているのでした。
岸は池野内議員の行っていることを公表し、インフルエンザパニックからこの世を救おうとするのです。
そのために夢の世界で勝たなくてはなりません。
新型インフルエンザの感染力は半端なく、もはやぱにっくすんぜんになっていました。
この世界では社長になった栩木の力を利用して、会社の大型テレビを使って新型インフルエンザワクチンの問題を知らしめることになったのでした。
感想
あとがきで作者の伊坂幸太郎さんが書いていますが、このような本を出したかったらしいです。
漫画ではなく、あくまで小説ですが、小説の挿絵以上に動きのある絵を挿入する、という試みらしいです。
各章の間に入っている絵は、確かに挿絵ではなく、「動き」があります。
文章を保管するという意味では悪くありませんが、この試みが成功しているのか?という点では疑問です。
この本の冒頭の部分で、いきなり、クレーム対応になりますが、なんだか生々しくて、私にはしっくり来る内容でした。
確かに顧客対応、特にクレームとなれば、この主人公である岸の対応は教科書どおりなのです。
ただ、彼も人間で、わかっていても押さえきれないことになるのですけどね。
わかります。
この小説が書かれたときには、まだ今のようにコロナの騒ぎは全くありませんでした。
今読んでみると、恐ろしいほどコロナの状況に似ている気がします。
まあ、この日本の国の国民はいかなる状況でも取り乱さず、パニックにはなっていませんが、この小説に書かれているみたいな利権があるなら、それは恐ろしい話です。
そしてこういう状況を「予想していた」かのようなこの小説は、まさにジャストミートでしたね。
この本のタイトルである「クジラアタマの王様」というのは、ハシビロコウの学名「Balaeniceps rex」のことで、これはラテン語でいうところの「クジラアタマの王様」ということらしいのです。
なんだか洒落ていますよね。
確かにハシビロコウという鳥、殆ど動かず、目もあまり動かさないで睨みを効かせています。
その目つきがとても悪く、良いイメージがありませんし、くちばしの大きさも半端ないです。
チョコボールのキョロちゃん?と思えなくもないですが、キャラは全く違いますね。
あとがきで、伊坂幸太郎さんは、主人公の岸は楽天イーグルスの岸孝之投手からとったものと明言しています。
小沢ヒジリは同じく楽天イーグルスの聖澤選手からとのこと。
だいたい著者の小説の舞台になるのは仙台。
仙台に対する深い愛を感じますね。