八木沢里志さんの小説です。
「純喫茶トルンカ」がとても読みやすく、読んでいて心が洗われるような小説でした。
大した物語でもないのですが、そんなごく普通の人たちにも、ひとりひとり大切な物語がある、人生があるのです。
この本もまたそういうお話。
「純喫茶トルンカ」とは全く関係のない物語ですが、ふたりの「特殊な」兄妹のとっても心温まる小説です。
この本の目次
その一 猫と兄妹
その二 あいまい弁当
その三 空色の傘
その四 夏のきらめき
その五 ポトフにご飯
その六 きみと暮らせば
この本の内容
簡単に言うと、あだち充さんの漫画の「みゆき」から恋愛関係を抜いて、少し現実っぽく、シビアにしたような内容ですね。
父の連れ子のユカリと母の連れ子の陽一。
父と母は、お互い結婚の失敗を経て、運命の人と巡り合ったと思えるほど中の良い夫婦なのです。
陽一が中学3年生の時にユカリはまだ5歳の幼い子供。
初めての出会いをお互いきちんと覚えています。
しかし、5年前に父と母は交通事故で一緒になくなってしまいました。
相田家の血の繋がらない兄妹、陽一とユカリを中心に描かれる物語。
1話目の「猫と兄妹」では登場人物の紹介がてらに、新たに家族となる「種田さん」が加わります。
牛模様の野良猫が相田家にやってきます。
陽一がつけた名前が「種田さん」なのでした。
はじめに見つけたのがユカリで餌の世話もユカリなのですが、「種田さん」は陽一になついています。
2話目の「あいまい弁当」には陽一の勤め先の後輩の浦上くんが登場します。
ユカリは料理上手。
兄のために毎日「愛妹弁当」を作ってくれるんですね。
ユカリの友達の長谷川さんも登場します。
そして彼氏と別れたばかりの長谷川さんの姉と彼女のいない陽一をくっつけようとする作戦をたてます。
3話目の「空色の傘」は義理の母であるサチコさんの傘を傘を持たない子供に差し出したことから始まるお話。
傘を貸してあげた子供の名前はムサシ。
そしてムサシのそばにいつも付き添うしっかりもののマリエ。
この小さなカップルとの不思議な縁。
4話目は「夏のきらめき」というタイトルからは若さ弾けるイメージがありますが、近所に住むユカリの大好きなおじいちゃんとの話です。
おじいちゃんは長年農仕事をしていて、歳は取っていてもしっかりしていますが、入院してしまいます。
心配したユカリはお見舞いに行き、おじいちゃんの入院中におじいちゃんの畑の守りをすることになりました。
第5話 「ポトフにご飯」というタイトルに違和感を感じた、そのまんまの内容です。
ポトフはご飯にあいませんよね。
パンだよねっっていうのが、オチなのですが、ユカリの通う中学校の鹿野先生と兄の陽一が実はクラスメートで、急接近。
両親の命日のことで、第6話に続きます。
第6話はこの本のタイトルになっている「きみと暮らせば」。
一番重くて、一番ジーンと来る話かもしれません。
両親の命日で法事を終えたあたりから頻繁にかかってくる無言電話。
今後の二人の生活を兄妹がお互い真剣に考えた結果、しばらくは兄妹で暮らしたいということでした。
この本の感想
これがとても良かったのです。
私の人生や周りの人間で絡むところはまったくないのですが、しっかり者の主人公ユカリとのほほんとしたほっこり系の兄の陽一。
付かず離れず、血の繋がりはないから微妙な距離感を保っている兄妹。
血の繋がりはないとはいえ、恋愛関係には程遠く、かといって放っておけるほど気にならない存在でもない。
父と母がお互い連れ子を連れて運命的な出会いを果たしたように、この血の繋がりのない兄妹も歳は離れていても、これ以上ない兄妹として相性抜群なのでしょう。
この話には続編がありませんが、その後の兄妹を描いてもきっと面白いと思いますが、ココで終わるからこそ良いのかもしれません。
お互いの親に対してはユカリは義母をサチコさんと呼びますし、陽一は義父をおじさんとよんでいます。
しかしふたりはお互いに兄と妹として認めあっているのです。
兄の陽一は両親が死んだときは大学生だったのですが、大学を中退して就職。
そしてユカリと一緒に暮らすことを選ぶのです。
ユカリも子供がいないおばさんが養子として受け入れるつもりだったのですが、兄との生活を頑として譲りません。
この物語の最後にもユカリの生母が登場するのですが、生母よりも兄を選びます。
この物語に登場する二人の兄妹。
ほのぼのとしていても、自分たちの暮らしを守るためにお互い協力し、努力をしています。
ふたりとも思いやっているということろをあまり見せないのですが、お互いいちばん大切な人として接していますね。
恋愛関係抜きと言っていますが、ものすごく気になることも確かです。
兄に彼女を見つけてあげたいと考えるしっかり者の妹。
しっかり者の妹に彼氏ができたと聞いてオロオロする兄。
とても可愛らしいですよ、ふたりとも。
オススメします。
