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お金の流れでわかる世界の歴史 大村大次郎 その5 最終回

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さて、お金の流れでわかる世界の歴史、残り1章です。


ココまでの流れ

 

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第12章 ソ連誕生、リーマンショック、混迷する世界経済

資本主義、帝国主義は繁栄しましたが、深刻な矛盾も抱えていました。
それは「貧富の格差」、そして「失業」問題です。

経済の発展とともに莫大な富を手にする資本家がいる一方で、過酷な労働をしても豊かになれない労働者が大勢生まれました。
そして職業を失い、生活できなくなる人たちも増加します。
社会そのものには、鬱蒼とした負のエネルギーが充満していくのです。

日本でも富を独占する資本家がいる一方で、生活が成り立たずに娘を身売りするという農家などが増加していったのです。

石川啄木の歌集「一握の砂」で有名な詩にあります。
「働けど、働けど、なお我が暮らし楽にならざり、じっと手を見る」

この歌に詠まれるように、労働者はいくら努力しても、一向に暮らし向きが良くなりません。
とはいえ、ひたいに汗し、手にマメをつくって、過酷な労働をしなければ、その日を暮らしていくことすらままならない状況です。

日本だけでなく、資本主義の行き着く先は貧富の差でした。

誰もかこれはおかしいと考えるようになります。
共産主義という思想が出てくるようになるのも、社会が必要としていたからに他ならないと思います。

共産主義

共産主義は21世紀の現在においては、もはや幻想に過ぎず、結局の所資本主義で行きていくしかないのですが、それは20世紀末に共産主義が崩壊していくことを目の当たりにしてみていたからです。

しかし、20世紀初頭は共産主義を標榜して建国されたソビエト連邦が世界の中で大きな意味を持つ時代でした。

共産主義」というのは、19世紀から20世紀にかけて、知識人の間で一種のブームになっていた思想でもあります。

当時の知識人は、「共産主義こそが、資本家から社会の富を取り戻し、労働者をはじめ国民全般に分配するしくみをもった、搾取されるものも搾取するものもいない平等な社会を実現する」と思っていたのでした。

ソ連第一次世界大戦中に起きたロシア革命の混乱に乗じて、「武装蜂起」によって共産党が権力を掌握してできたのです。

当時世界大恐慌の中、ソ連は五カ年計画を成功させ、共産主義は不況や失業とは無縁の「理想的な社会」を作ることができる思想だと思われたのでした。

しかし、実態は、大量粛清を行ったり、強制的に農村からの供出をさせたりしており、実際には多くの死者、餓死者を出していたのです。

多くの人たち、とりわけ資本主義に疲れ果てた知識人にとっては、非常に魅力のある思想として注目されたのでした。

共産主義というのは、究極の中央集権国家と考えられます。

これまで、中央集権国家による、資源の集中で経済発展を遂げた歴史を見てきました。
究極の中央集権国家である「共産主義」こそが、最大の効率と成功を約束された方法であると思えます。
短期的には可能であったのかもしれないこの仕組ですが、そんなものはなかったのは歴史が証明しています。

 

共産主義は究極の中央集権国家、つまり官僚主義国家とも言いかえることができます。

”予算”と”計画”で動いていくのです。
共産主義が失敗したのは、経済の失速が最大原因です。
貧富の差がなく、平等で、競争のない世界は経済が発展しないと言われますが、それは妥当な見方ではありません。


ソ連は平等だから崩壊したのではなく、むしろ、自由主義国よりも不平等だったから崩壊したのです。


共産党は平等を謳っていますが、現実には情報公開されず、共産党員の上層部は特権階級で、とても優遇されているのです。

ともあれ、共産主義は官僚と同じく、予算と計画で動く組織なので、計画に足りなければダメですし、多すぎてもいけないのです。
無駄がないように見えて、恐ろしいほどのムダが生じるシステムだったのです。


必要だと思った仕事も、事前に計画と予算を組んでいなければ、実行することはできません。
逆に不要な仕事でも、計画が組んであれば、必ず実行しなければならないのです。
現場での声、創意工夫が全く反映されません。
これらの無駄は長期に渡って蓄積し、労働者の意欲をもそいでいくことになるのです。

たちが悪いことに、自由主義国ではなく、言論も統制されているため、正しい情報は得られず、特権階級にとって都合の悪いことは、隠蔽されます。

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経済の停滞は20世紀後半に入り、覆い尽くせないほどの状況になりました。
ゴルバチョフ書記長は1985年に、国のトップになると、深刻な状況にある経済を立て直すために、ペレストロイカ(改革開放政策)を実施するのです。
同時にグラスノチとよばれる情報公開も進めていきます。

最終的にソ連は崩壊します。
グラスノチによって、現在のソ連の経済状況を知った国民たちの怒りは収まらず、ソ連をボスとした共産主義経済圏(東欧諸国)は雪崩のように次々と崩壊していきます。
同時にこれまでの不正が明るみに出てくるのです。

社会主義は平等というのは全くのまやかしで、特権階級と貧困層の格差はひどすぎるだけでなく、チャレンジする機会すら与えられない世界です。


当時のソ連の平均減収は157ルーブルとされていますが、農民は117ルーブル、最貧困層は75ルーブル以下であり、貧困層と最貧困層彼らの割合は国民の35%にも及んだと言います。
しかし、その一方で共産党幹部などの富裕層は月500ルーブル以上の年金をもらっていたのです。

自由な競争の結果、貧困になったのであればまだしも、機会すら与えられず、後世な競争ができない社会、コネがあるものが圧倒的に有利で、不正を働くものが豊かになる社会。
これこそが共産主義社会主義の実態なのです。
つまりは共産主義は平等ではなく、全くの不公平、不平等なしくみだったのです。
崩壊するべくして崩壊したのです。

 

西側諸国の不安定さ

では西側諸国を見ていきましょう。
共産主義が崩壊している中、資本主義が繁栄を謳歌していたのかというと、必ずしもそうではなく、かなり不安定で、大きな危機にも見舞われているのです。

そもそもアメリカという国が国際通貨の基軸としていることに様々な問題があります。
第二次世界大戦終結した当時、アメリカは世界の金の7割を保有する超大国になっていました。
ところが、おごれる平家は久しからず。
アメリカも20年ほどで凋落していきます。

ドイツや日本は戦争に破れました。
しかしこれらの国々が復興してくると、アメリカの輸出は大きく鈍化し、貿易赤字を垂れ流すようになります。

しかし世界経済全体から見れば、アメリカ一国が衰えても、世界経済が良ければ悪くないと考えますが、そうはならないしくみを抱えているのでした。

1944年、連合国は戦後の国際経済の枠組みを作ることにしました。
ブレトン・ウッズで開催された会議なのでブレトン・ウッズ協定と呼ばれたりします。
それはアメリカのドルを世界の基軸通貨とすること、および金本位制としたのです。

つまりはアメリカの経済がダメージを受けるとドルの信用が低下し、世界中の経済が大混乱になるという可能性を内包していたのです。

先述したイギリスの経済学者ケインズは、このアメリカのドルを基軸通貨にするという意見に反対をします。
また貿易の均衡を保つためのしくみも提案しています。
しかしアメリカはこのケインズの提案を受け入れる事はできません。
圧倒的に保有している金の優位性を活かしたいと考えるのは当然でしょう。
アメリカは金本位制にこだわり、その結果ドル以外には基軸通貨になり得なかったことになります。
同時にアメリカは貿易赤字国家に転落するなんてことは当時は考えもしなかったのでしょう。

第二次世界大戦後は「アメリカの一人勝ち」という状況から、「アメリカの一人負け」という状況に変わっていきます。

アメリカは戦後の復興のため、ヨーロッパやアジアに資本を投下しました。
そしてそれらの国から多くのものを買ってくれるようになりました。
アメリカの積み上げられた金の保有はまたたく間に減少し、金の保有が減るとドルの信用も低下していくのです。

1960年代後半からアメリカの金流出は止まらず、ついに1971年、アメリカの大統領のニクソンはドルと金との交換の停止を発表します。
つまりは金本位制の崩壊、ブレトン・ウッズ体制は崩壊したのです。
わずか1/4世紀ほどしかこの仕組はもたなかったのです。

そもそもはじめから矛盾を含んだしくみです。
一国の通貨を世界の基軸通貨にすること自体に無理があったのです。
アメリカのドルを世界に流通させるためにはアメリカは赤字でなければなりません。
黒字ならドルはアメリカに還流し、世界中に行き渡りません。
世界中の国はドルが必要なため、アメリカの赤字を望みますが、アメリカが赤字を垂れ流し続けるとドルの信用がドンドン低下するということなのです。

ブレトン・ウッズ体制が崩壊してからもドルは国債基軸通貨でした。
ドルに取って代わるしくみがないためです。
赤字のアメリカは例えば、円に対してドルの切り下げを行うなどもしましたが、ついに変動為替に移行します。

いずれにしても不安定ながらも他の選択肢もなく、世界の基軸通貨として現在もドルは世界中で利用されています。


リーマンショック

日本では土地や株を中心にバブルが発生したのが1980年代後半でした。
当時、金融自由化という言葉で、護送船団方式から自由化へ!というのが日本の金融機関に課せられた課題でした。

そして巨大な対米黒字解消のため、アメリカから内需拡大を求められます。
それらの相乗効果によって、日本は異常なほどの投資ブームになり、誰もがお金持ちになれると信じて疑わなかった時代を迎えます。
1万円札を手にかざしてタクシーを拾う若者たちがいたり、会社の慰安旅行が海外であったりなど、今からは考えられないような金銭感覚に陥った時代です。

働いて2-3年目の社会人が6000万円ものマンションを買うとか、建設も始まっていない海外のゴルフ場の会員権を買うとか、21世紀の現在の情勢ではありえない話ですよね。

バブルとは泡、膨らんで大きくなっても中身は空っぽであり、いずれは弾けてしまいます。

ちなみに1999年の法改正によってアメリカはバブルに入っていきます。
グラス・スティーガル法という金融の絶対的なルールがあったのですが、それができたのは過去に大恐慌を経験した反省からでした。
しかし人間は喉元過ぎれば熱さ忘れる、半世紀以上もすぎると過去の反省を忘れてしまう生き物なのでしょうか。
グラス・スティーガル法投資銀行は商業銀行を兼務できないという法律です。
日本を始め他国もこの法律に見習っていると思われます。
商業銀行とは預金を受け、貸し出しをする、我々が思う普通の銀行。
一方投資銀行とは、預託されたお金を証券などに投資して収益を図る、いわば証券会社のような役割の会社です。
ざっくりいうと銀行業務と証券業務は一緒にやってはいけないというルールですね。
これらをどちらも扱えるようになると何が問題なのか?

このルールができる前には銀行は預かった預金を株式投資などリスクの高いものに投資をしていました。
銀行の預金とは「公共性」があり、安定が求められます。
世界大恐慌以降、この銀行と証券の分離を目的とした法律が絶対的ルールとしてありました。
しかし、1999年にグラム・リーチ・ブライリー法が制定され、グラス・スティーガル法が骨抜きになったと言われます。
銀行は預金を集め、住宅ローンなど個人にお金を貸し付けます。
IT技術の進歩と金融がちょうどこの頃に大きく発展し、デリバティブと呼ばれる金融派生商品が多く作られました。
銀行が貸し出したお金は銀行が債権として持っています。
それを証券化して、投資対象の金融商品として販売すれば、新たに資金を得ることができます。
このようにして多くの不動産債権は証券化されて販売されました。
すでにアメリカでは住宅バブルの状況だったのです。
サブプライムローンという低所得者向けの住宅ローンが金融商品として販売されていましたが、当然リスクはありますし、金融工学証券化が結びついた複雑な金融商品です。
住宅価格が上がり続けている状態(バブル)では問題ありませんが、一旦住宅バブルが弾けるとどうなるかは明らかです。

このサブプライムローンの焦げ付きから連鎖するように金融機関の業績が悪化します。
業界大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻による信用不安が波及し、世界的な金融問題が起きたのがリーマン・ショックです。

 

また、1990年代から始まった世界的なマネーゲームブームはソ連の崩壊が大きく影響していると言います。
ソ連が健在のときには、西側諸国は資本主義の行き過ぎに常に注意を払っていました。
しかし共産主義が崩壊すると、資本主義こそが優れた経済システムだとばかりに歯止めがかからなくなってきます。
投資する側に自由、便宜を与えるようになっていくのです。
ソ連など共産主義が健在の頃には資本主義も、相続税累進課税などにより、富めるものからしっかり税金を取ることにより、社会的なバランスを図ってきました。
しかし、ソ連が崩壊してからは、相続税累進課税は廃止、縮小される傾向が強まっています。

投資に対する減税を行うことで投資を促進させるという意味で、経済にはプラスの意味はもちろんありますが、その結果、世界中で投資ブームが起き、マネーゲームが加速しています。

ちなみに世界中の富の半分は1%の富裕層が握っていると言われています。
いびつに歪んだ富の配分は様々な問題の原因となりますが、富裕層に富が集中するようなしくみは改善されるようには見られません。

これはフランス革命の前夜のような状況だと著者は述べ、いつ世界的な規模のフランス革命が起きてもおかしくないと締めくくられています。

 

終わりに

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先進諸国に共通の問題としてタックスヘイブンがあります。
直訳すると「税金天国」ですが、いわば「租税回避地域」ということです。
ケイマン諸島だとか、バージン諸島、ルクセンブルクなどが「タックスヘイブン」として挙げられています。
これらの地域には税に対する優遇措置があり、企業や富裕層が資産を移し、支払うべき納税から逃れています。

このタックスヘイブンにより、先進国の大企業や富裕者層に対して高い税を課すことができなくなっています。
その結果、国家は富裕者ではなく、中間層以下に厳しい課税を行うようになっています。

これはこの本で何度も出てきた、
「国が崩壊するときにありがちなパターン」
そのものですね。

強い国は、財政システム、徴税システムなどがしっかりと整っている。
そして国が傾くのは、富裕層が特権を作って税金を逃れ、中間層以下にそのしわ寄せが行くときなのです。

だからこそ、国を長きに渡って反映させるためには、税金を逃れる特権階級を作らせないことです。

現在タックスヘイブンなどにより、世界的規模での特権階級が生じているということは、世界的な規模での「崩壊」が近づいているのかもしれません。

 

個人的な感想なども

長らくお付き合いいただきましてありがとうございます。
自分のためのまとめ用で書き連ねていくうちに、なんだか長くなってしまいました。
こんなに長いものになるつもりはなかったのですけどね。

大村大次郎さんのこの本自体、あまり長くはありませんので、興味がある方は実際に読んで頂くのが一番良いと思います。

学生時代、世界史は履修していませんでした。
なので、世界史に関しては中学校の知識くらいしかありません。
小説や雑誌、コラムなどからの断片的な知識の中、世界史を見るのも面白いのですね。

同時に、高校時代の世界史の授業ををやり直してみたいな、という気持ちもありましたが、学生のようにまとまった時間が取れていないです。

映画を見たり、娯楽小説を読んだり、ゲームをしたりといろいろと忙しいのですねwww。
もちろんその合間に仕事もしていますので。(本来なら、逆ですかね)

 




それとともに、現在大村大次郎さんの「お金の流れで見る戦国時代」というものを読んでいます。
今回読んだ本と同じようなタイトルですが、内容はやはり戦国時代に絞っていますし、世界でもありませんので、随分と違います。
同じような流れですが、日本史上、非常に大きな事件の本能寺の変をお金の面から考察したのが「経済戦争としての本能寺の変」と言う本です。
これもちょこっと読み始めています。
そして全然タイプが違う本、「元国税調査官が明かす 金を取る技術」というものも読んでいます。
どの本もそれなりに面白いのですが、「世界の歴史」の本が一枚上の面白さですね。

でもこの2つの本も読み物としてはそれなりに面白いです。
歴史の本として、戦国時代と本能寺の変は楽しめます。
金を取り技術の方がちょっとそういうたぐいのものとは違いますが、税金を始めとしてお金に対してシビアな目を養うのに役立つかもしれません。

そもそもサラリーマンをしていると本当に税金などに関して無頓着になります。
目をさますのにはちょうどよいかもしれません。




 

 

 

 

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