悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

運命の恋をかなえるスタンダール 水野敬也

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「夢をかなえるゾウ」の著者である水野敬也さんの本です。
あの本は1~4まで読みましたが、どれも大変面白かったです。
インドの象の顔をした神様、ガネーシャが登場し、怪しげな関西弁で様々なアドバイスをしてくれるというストーリーです。

「運命の恋をかなえるスタンダール」にはガネーシャは登場しませんが、代わりにフランスの文豪スタンダールが、登場します。
怪しげな関西弁こそ喋りませんが、十分怪しげな人物として活躍します。

 

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登場人物

万平聡子(岡部聡子)
主人公。
緑山図書館に勤務する図書館司書。
万平という姓を名乗ることができず、本の中に現実逃避指定来てきた女性。
人と接することが苦手。

スタンダール
聡子がふと開いた「恋愛論」という本の中から飛び出した「偉大なる作家にして、この世界におけるありとあらゆる恋愛を分析した恋愛の達人」(自己評価)のスタンダール本人です。

パックン
精神科に通う聡子の心に安心感をもたらす「抗不安剤」のワイパックス1mg錠。
いつも彼女の鞄の中のピルケースに入っていて、不安になる彼女を影から励ましています。
かなり怪しげな関西弁を話します。

 

鈴木涼介(鶫涼介)
図書館の利用客の一人で爽やかなイケメンで、若い女性図書館職員からも噂になっているほどの人物。
聡子にとっての理想の男性のマリウス。

斎藤悦子
図書館のチーフで聡子よりも年上のの独身女性。
聡子と「お一人様条約」を結んでいます。

 

西巻

図書館で働く年下の同僚だが、独身で地味な聡子を心から蔑んでいる意地悪な女性です。

小沢

西巻と同じく図書館で働く年下の同僚。

村石

職場の同僚です。
図書館で働く男性司書。


万平真

聡子の父。
宮城県の大学教授。
24年前に旧石器時代の遺物を発掘して一躍時の人となったが、この発掘自体が自作自演であったことが後に発覚。

 

あらすじ

万平聡子は、父が巻き起こした「事件」のために、小学校のころから心に傷を受けています。
「まんだいら」という目立つ姓のために、自分の人生に逆恨みし、人から見られないように、目立たないように生きてきました。
彼女は本の中に自分の居場所を見つけたようですが、それはある意味現実逃避でもありました。
彼女は色々な恐怖症から精神科でも治療を受けています。

 

図書館に訪れる客の一人にとても素敵な男性がいました。
彼女の心のなかでは、彼はマリウスと呼ばれています。
彼女の好きな小説「レ・ミゼラブル」に登場する男性で、自分はその世界ではコゼットなのでした。
マリウスは若い職場の女性職員の話題になるほどのイケメンでしたが、とても会話をする勇気もなく、自己嫌悪に陥っているのでした。

そんな折、「恋愛論」の本を開いた時に、著者でもあるフランスの文豪スタンダールが現れます。

スタンダールは怪しげなフランス語を交えながら、聡子に「恋愛のてほどき」をしてあげようと伝えるのでした。
理想の男性に声をかけなくてよかったとスタンダールは伝えます。
彼の教える恋愛とは、ワインと同じく熟成には時間がかかると言います。
スタンダールは、
「恋愛において、男はあまりにも容易な成功を軽蔑する。男は、向こうからくれるものをあまりありがたがらないものである。」と言いました。
そして勇気がなく声をかけられなかったことが良かったとも告げます。

しかし自分から声をかけることもなければ、どうして意中の男性と仲良くすることができるのか?とスタンダールに問いかけます。
「美は看板としては必要である」ということを説くとともに、恋の強い力について述べます。
その大切なポイントとして「結晶作用」を上げるのでした。
恋愛論に置いてもっと大切な概念でもあると伝えます。
一度好きになってしまった相手に対しては、その欠点を含めて(美醜で言うなら醜さを含めて)好きになるということなのです。
美は必要だが、恋愛においては相手に結晶作用を起こさせる事ができればよいのです。

スタンダールは結晶作用を起こさせるための方法として、周囲の評判になることをあげます。
「女は恋人を選ぶにあたって、彼女自身が男を見る気持ちよりも他の女が彼を見る態度を重んじる。男もまた然り」



スタンダールは彼女の外見的な魅力を自分で100個探してみるという課題を与えるのですが、それこそ聡子にとっては嫌がらせにしか聞こえませんでした。

自分に自身が持てなかった聡子ですが、スタンダールは次々に彼女の外見的な良さを褒めていきます。
そして「ヴォレ」によって、今までの自分から変割ることが必要だと言います。。
「ヴォレ」とは「飛ぶ」という意味のフランス語で、スタンダールが合言葉のように「ヴォレ」を連発し、彼女の持っている地味な服装をすべて捨てさせるのでした。

彼女はスタンダールによって、メガネをやめて、コンタクトにし、美容院で髪も切ってきたのでした。

見栄えのしなかった自分から普通の女性へと変わった聡子を褒めるスタンダールによって、恋愛に大切な要素「自信」を少し取り戻した聡子でした。

その後、スタンダールに従い、メイクの本を読み、メイクの練習も始めた聡子でした。


こうした努力に反応がありました。
職場の同僚の村石が彼女に対して、好意を持つようになっていきます。

徐々にですが手応えを感じていく聡子に妨害が入ります。
彼女の机にポストイットがあり、そこには「「色気づいてんじゃねえよババア」と書かれているのでした。

犯人はすぐに思いつきました。
職場で以前から陰口を叩いていた若い女性職員の西巻です。
聡子は小学時代に受けたいじめを思い出し、精神が不安定になってきます。

せっかく恋愛にも人生にも前向きになりそうな彼女を引き止める「いじめ」に対してスタンダールは強く励ますのです。

職場の天敵西巻に対して、逃げようとする自分を励ましてくれたのはやはりスタンダールでした。
そして不安を取り除いてくれるパックンもそばに付いています。

彼女は涙を見せながらも、きちんと西巻にこのようなことをすることをやめろと告げることができたのでした。

その後もスタンダールとの恋愛の手ほどきを受けながら、ついに憧れのマリウスが現れます。
そしてマトモな会話を交わし、フランス文学について意見をもらいたいというのです。聡子は鈴木涼介の名刺をもらうのでした。
その名刺に書かれていたのは鶫(つぐみ)涼介という名前。
有名なミステリー作家なのでした。

 

天にも昇るような気持ちで興奮冷めやらないままにスタンダールに報告する聡子でしたが、スタンダールはその状況を危険だと諭します。
聡子が舞い上がり、マリウスに対する結晶作用を起こせば起こすほど、マリウスの気持ちは冷めていくというのです。
必要なのは相手が自分に対して結晶作用を強めるように仕向けること。
そのために必要なことは「悪女」になることだと告げます。

悪女飲みが持つ武器、「期待を不安を与えるコミュニケーション」とスタンダールは伝えます。
そして悪女の課題をこなすためのターゲットとなったのが同僚の村石でした。

マリウスと聡子の恋の行方は~。


感想

良い歳したオッサンが恋愛の本を読むというのもどうかと思うのですが、読んでいてとても楽しい本でしたね。

スタンダールも「恋愛論」も知りませんし、代表作である「赤と黒」もかろうじてタイトルだけ知っている程度ですが、スタンダールを少しだけでも知った気になるから不思議です。

フランス文学だけでなく、海外文学に関しては、ほとんど知識がありませんね。
読書家の人はやはり色んな本を読んでいるのでしょうね。
これを機会にチャレンジしてみるのも良いかもしれないです。

水野敬也さんがこの小説で、スタンダールの言葉を借りて「恋愛論」をまとめてエッセンスにしてくれていると思います。

恋愛成就のためのハウツーのようなものではなく、やはり深い洞察と人間の行動を読み切った文豪ならではの解釈がありますね。

それを読むだけでも価値はあるけれど、やはり主人公万平聡子の恋愛のものがたりとして、小説として楽しむのが一番ですね。

「夢をかなえるゾウ」でも個性的なガネーシャがいて、面白いのですが、今回の小説に登場するスタンダールは関西弁こそ喋らないものの、基本的にはガネーシャと同じような人物です。
ガネーシャは神様でしたので、超常現象を起こすのも当たり前の気もしますが、スタンダールは普通の人間です。
それが普通に日本語を喋っている違和感とともに、時々フランス語にハマってその掛け声を強要する点なども楽しいのです。

「ヴォレ」
「オニヴァ」
「ダンジェ」
「メルシィ」
「ファム・ファタる」
「テ・トワ」
フランス語は全く知らないけれど、ネタにすれば、面白いですよね。

謎の関西弁は抗不安剤のパックンが担当してくれており、折れそうになる聡子を関西弁で優しく支えてくれるのですね。
いい仕事していますね。

あらすじのところでは最後まで書いていません。

展開的にはハッピーエンドなのですが、終盤のところで幼い頃に苦労した父の自作自演による発掘騒動についての真相がわかるシーンがあります。
全体を通してはネタのために作られた?と思えるようなお笑いシーンが多いのですが、きちんと涙を誘う部分もあったりして、感動もあります。

 

 

 

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