悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

捕手異論 一流と二流をわける、プロの野球『眼』 里崎智也

野村克也氏の本に触発されということもないが、立て続けにこの本を読んだ。
緻密な野村氏と異なり、おおざっぱなイメージのある里崎氏だが、やはりこのような本が出せるほどの選手だったということで、見るべき点はあった。

冒頭の「1回表」に書かれている内容は本当に普段から私が思っていることをズバリと指摘してくれた。
曖昧な言葉、ここでは具体的な指示ではなく、結果良ければそれでよしみたいな内容の指示である。
私が普段から思っていることだが、上司たるものは部下に指示する場合には具体的に指示が必要。「臨機応変に対処してくれ」とか、「うまく着地点を見つけて対応してくれ」とか指示の意味がない。
みんなその程度の意識や覚悟を持って仕事はしているはずで、それらの支持しかできない上司は不要である。一般社会でもこんな上司がまだまだ多いが、プロ野球の現場では体質が古臭く、テレビ解説者なども根拠が乏しい精神論を挙げる人がいる。

「1回裏」のいいリードというのも結果論に過ぎないとバッサリ述べているのはある意味痛快だった。確かに結果論である。ただし、結果論ではあるが、意味のある配球やリードといったものはあると思う。

「3回裏」盗塁阻止に関してもその通り。盗塁阻止率が捕手の優秀さを示す指標とされているが、その矛盾をついている。確かに。大昔の時代ならまだしも近代の野球で盗塁されるのは捕手が悪いのではなく投手の責任であるのは明白。まあ記事を書き立てるマスコミが無能なんだろうと思う。

「6回裏」送りバントの効果について。そしてジグザグ打線に関しては面白かった。どちらも数字の上では意味がないということがわかった。ただ、送りバントに関しては次の打者との兼ね合いなどケースにもよるというのは当たり前の話。ジグザグ打線に関してはイメージ先行で全く意味がないとまで言い切っている。左対左は投手の有利というのはかつての話。右投げ左打ちばかりを作ってきた野球界は今や左打者だらけである。

「8回表」ポストシーズンについても賛成の立場で書かれている。パ・リーグで「下克上」日本一となったマリーンズならではのご意見というところもあるが、興行上の理由を言われると確かに一理以上の理由はありそう。個人的にはシーズンの成績が短期決戦によって覆されるのはいかがなものかという気持ちがあり、クライマックスシリーズに関しては賛成できないところもまだあるのだが。ただ、ここまででシーズンを通して強かったチームが優勝し、クライマックスシリーズで敗退するというケース自体がレアケースだとしている。

セパ交流戦に関してはセ・リーグがもうちょっとがんばれよとしか言えない。

プロ野球のキャラクターとしては明るく、エンターテイナーでもある里崎氏だが、やはり扇の要である捕手だけあって、しっかりとした野球観を持っていると感じた。

 

まえがき
1回表 プロ野球は「曖昧な言葉」であふれている
1回裏 捕手が「リード」を語るまえにすべきこと
2回表 慢性的な「正捕手不足」はなぜ起きる?
2回裏 安易な「コンバート」が人材難を助長する
3回表 相性優先の「専属捕手」はアリか、ナシか
3回裏 「盗塁阻止」の失敗は6対4で投手の責任である
4回表 捕手目線から見た「一流投手」の条件とは?
4回裏 デキる捕手は相手打者の「影」を見る
5回表 近頃よく聞く「誤審が増えた」は本当か?
5回裏 「決められたルール」に従うのがプロである
6回表 「強打者=クリーンアップ」が最善の策とはかぎらない
6回裏 「送りバント」や「ジグザグ打線」は有効か?
7回表 野球ほど「無駄」の多いスポーツはない
7回裏 もし里崎が「球団フロント」になったなら
8回表 「ポストシーズン」、「交流戦」は必要か?
8回裏 日本の野球が「世界」と戦うために
9回表 行使しなかった僕が「FA制度」に思うこと
9回裏 「キャラ」を演じてこそ本当のプロである
延長戦 スペシャル対談 里崎智也×塙宣之(ナイツ)
あとがき

 

 

 

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