悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

ブリッジ・オブ・スパイ

スティーブン・スピルバーグ作品。
トム・ハンクス主演。
実話を元に作られた映画。
冷戦時代、ソ連のスパイを弁護する弁護士の話。
そして同じくアメリカもスパイ活動を行っており、任務にあたっていた人間がソ連に拘束される。
どちらの大国も公式にスパイ活動を認めるわけにはいかず、スパイ同士の交換は民間人のこの弁護士に委ねられるというストーリー。

アメリカの安全を脅かすソ連のスパイはアメリカ中の人々からは忌み嫌われる存在。
祖国に忠実なスパイ、ルドルフ・アデルはアメリカ当局に捕まるが、協力しない。
死をも覚悟している人物。
スパイは処刑がふさわしいと考えられており、誰もソ連のスパイを弁護するものはいない。
主人公のジム・ドノヴァンも積極的に弁護を請け負ったわけではない。仕方なくである。
犯罪者の弁護人が世間から白い目で見られるようにドノヴァンは冷たい視線にさらされる。

一方、アメリカも共産圏の脅威を排除すべくスパイ活動を極秘裏に展開。
そしてその実行者であるフランシス・ゲーリーパワーズも同じく祖国に忠義を誓ったもの。
命を賭して任務に当たるが、撃墜され、ソ連に捕縛される。

二人のスパイ同士の交換が大国同士の面子も絡み合いながら、進んでいく。
どちらの国も公式にはスパイア活動は認めていないが、彼らの口から自国の秘密が露見することを恐れている。
両国ともにスパイの命という人道的な目的で交換するのではなく、むしろ死んでくれれば良いと思っているフシがある。

そしてそれに加えてベルリンの分裂。
丁度ベルリンの壁が設置されつつある時代である。
冷戦の象徴とも言えるベルリンの壁
そこで経済学を学ぶ青年フレデリック・プライヤーがスパイと疑われて拘束される。
東ドイツにも面子があり、交渉は難航する。

アクション映画ではない。
非常にリアルな作品であり、そこにはハリウッド映画特有のヒーローというものは出てこない。

判事の法の番人としての立場よりも国益ありきの発言にはガッカリした。
処刑して終わり、形式的なものだという発言。
まあ、当時の世相としては真理を得ていると思うが、が、最終的にはドノヴァンの保険として生かしておく意見に従ったもので、殺さずに留置することになる。

CIAもものすごい。
彼らがエリート集団であるのはわかる。
虫がよすぎる。
彼らの中に交渉に当たれる人間はいないものなのか?
スパイ活動を実行した若い兵士はただのコマ。
作戦を立案した人間たちは裁かれない。
CIAもスパイがなぜ自決しなかったのかを攻めるような口ぶり。
そして東ドイツに拘束されている学生に対しては、勝手にそういうややこしいところに行ったものは自己責任だから知らないよ〜という感じ。
ドノヴァンがこの青年を助け出そうとしていることを良しとしない。
はやくアメリカのスパイから秘密が漏れるおそれがあることを阻止したいだけである。
それはソ連も同じだろう。

ラストシーン、橋の上での交換の時に、ドノヴァンとアベルは話をする。
ソ連がアデルをどう扱うのかを心配するドノヴァンに対して、アデルは応える。
「抱擁すれば許し、後ろの座席に押しこめば、処分される」と。
交換後、後ろの座席に押し込められたアデルを見て心配そうにするドノヴァンが非常に印象的である。

気が進まなかった弁護を引き受けたドノヴァンだが、彼は自分の仕事に対して真摯に取り組んでいる。
弁護は難たるかをよく考えている人物。
そして弁護する被告を非常に敬っている。
アデルは悪人ではない。
アメリカ人から見れば凶悪犯であるが、一人の人間としてみれば、時分の命をかけて祖国の為に裏切らず真摯に任務を実行したに過ぎない。
それはパワーズも同じである。祖国の為に命をかけてきているのである。

パワーズが迎えに来た(本人確認のため)軍人と抱擁し、アデルが車の後ろに押し込められるのはちょっとアメリカを美しく描き過ぎかな?とも思う。
同じである。

ただ、こういう映画をこういう表現で作れる国、アメリカでもある。




トム・ハンクスが素晴らしいのはもちろんだが、その他の俳優もいい味を出している。
こういう映画は絶対見たほうがいいと思う。
私のような年齢のものもそうだが、若い人たちにも見てもらいたいと思う。
どう感じるかは人それぞれだと思うが、素晴らしい映画。



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