悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

火の粉 雫井脩介

面白いというかついつい先を読みたくなる小説で、2日で時間の合間を見ながら読んでしまった。
残念ながら気分の悪いところが多く、読んでいる途中もすっきりしない。
話はわかりやすく、文章は読みやすい。
すっきりしないのはそういう点ではなく、ストーリーというかこの小説の登場人物や題材。
裁判官が登場し、彼が主人公と思って読み進めるとどうやら違う。
裁判官の家族が登場し、舞台は彼の家庭に持ち込まれると思っていたら、彼は脇役であった。
その課程の内容が、橋田壽賀子もびっくりの陰湿でジメジメした話の連続。
嫌いな部類の話。
主人公不在と思っていたら、どうやらこの小説の主人公は「火の粉」を撒き散らかしている人。
なかなか不快な人物。終盤になって、彼を幼いころからよく知る人間が登場してから、彼の人となりがはっきりしてくる。
気持ち悪い人物である。
今まで何人殺しているのだろう。
冤罪を取り扱ったテーマと思っていたら、そうではなかった。

裁判官という法の番人だが、世間知らずと言うのはよくある話。
主人公と最初勘違いしていた梶間勲がどうしようもない男。
エリートで勉強はでき、なおかつ温厚という人物だが、煮え切らないという決定的な欠点があった。
彼をよく知る検察の野見山がもっとも冷静に人間を見抜いていた。

裁判官も人間で人を裁くと言うのは非常に責任の思い仕事である。
見落としや間違いもある。
法廷で時間をかけて審議し結果を出すので、適当に行っているわけではないと思うが、万能ではない。
死刑判決を出すというのは法律による殺人と同等であり、避けたいというのが人間としては理解できるところでもある。
ただ、この煮え切らない勲は心の奥底にあるそういった部分をごまかして生きてきた。
母の介護という言い訳を元に裁判官もやめてしまっている。
人をさばくのが辛くなってきたからである。
裁判長となり、死刑判決を出すのが嫌だからである。
それを自分自身の中で認めたくない。
最期に自分で蒔いた種を刈り取るわけだが・・・。

この小説の舞台になった梶間家もはたから見れば幸せそうな家族だが、色々な点でいびつ。
息子夫婦に孫、ボケが入ってきた寝たきりの老人の4世代が住む住居。
新居とはいえ、快適な住空間にはほど遠い。
そしてたまに訪ねてくる小姑。かなりイラつく存在である。
この家の家長である梶間勲は社会的には裁判所を長らく勤め、今は大学教授というエリートであるが、人間としては薄っぺらい。
そして一人息子の俊郎。女房子供がいるにもかかわらず、働いていない。
親に生活を全部見てもらっているのに偉そうにしている大馬鹿者である。
コイツも勉強はできるのだろうが、人物としては薄っぺらい。親父によく似ている。
嫁としてよく使えてきた妻の尋恵、息子の嫁の雪見はふたりともなかなかガッツのある人物。

犯罪を題材にした小説ではあるが、人間模様がいやらしくて、よんでいて気分が悪い小説である。





面白かった。


火の粉 (幻冬舎文庫)

火の粉 (幻冬舎文庫)

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