悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

村上海賊の娘 和田竜

本屋大賞を受賞した作品。
和田竜の本は「のぼうの城」「忍びの国」につづき、3つ目である。
これまで読んだ2つは間違いなく面白かった。
今回もそれなりに期待して読んだが、裏切られることはなく非常に楽しめたのである。
登場人物がやはり個性が際立っていること。
主人公は女性でこの時代の小説で女性が主人公になるのは難しい。
しかもこういう時代の女性が歴史の表舞台に登場するのは絶世の美女と相場は決まっている。
しかし主人公景は長身でお転婆を通り越して、悍馬(じゃじゃ馬)にして醜女。
当時の美意識からは醜女だったのだろうが、現代的な美意識からは景の姿は魅力的な女性に違いない(そう思いたい)。
海賊。戦国時代。舞台は織田家本願寺の攻防となった大阪石山本願寺
本願寺は信長の執拗な攻撃にもはや後がなく、頼るのは海からの援助、つまり毛利家であった。
毛利家の知将小早川隆景織田家と事を構えるのは避けたい。
しかし情勢は本願寺側に付き、織田家と戦う事になる。
毛利家には水軍はあるが、主力は三島村上家。因島村上家、来島村上家、そして主人公の景の能島村上家である。
織田家には水軍は毛利家ほど強力ではない。というよりもむしろ泉州を拠点とする海賊がこの土地の織田家の主力水軍である。
この村上水軍泉州の侍、海賊との戦いを描いた物語。
登場する人物は本当に個性豊かでオモロイ奴らばかり。
嬉しい事に大阪が舞台だけあって土地勘もわかるし、言葉も馴染む(ちょっと大げさだが)
何よりも我が地元の住吉大社も出てくるのが嬉しい。
作者も広島、大阪というのがなじみの土地である。大阪生まれの広島育ちとある。
主人公景を中心に、生真面目な兄元吉と姉に振り回される気弱な弟、景親の三兄弟。
そして父親の武吉。来島村上、因島村上の叔父たち。
毛利家の家臣、児玉就英と乃美宗勝らとともに本願寺の要請を受け加勢に行くが、そのあたりの政治的な駆け引きもなかなか面白い。

一方織田の尖兵として使われる泉州地侍
眞鍋童夢斎(どうむさい)から家督を譲り受けた息子の眞鍋家の当主、七五三兵衛(しめのひょうえ)。
地侍のまとめ役として居座る沼間任世(ぬまただよ)とその嫡男義清。
狡猾さがクローズアップされる瓜兄弟、 松浦安太夫と寺田又右衛門。
彼らもただ織田家の道具として使われるのではなく、織田信長が頼りになる親分ということなら従うが、頼りなければこちらから見限ってやるという気概を持った荒くれ者たち。

そして本願寺側。中心にいるのは本願寺顕如
死をも恐れぬ信者を盾に戦う下間頼竜。「進めば極楽、退けば地獄」というのはあまりにもむごたらしい。今回の悪役の筆頭筋。
雑賀衆の頭領、雑賀孫市。本人は本願寺なんかと心中する気はないが、雑賀衆には信者が多く仕方がなかったのかも。
もちろん活躍するのは鉄砲衆だが、今回の海での闘いでは活躍はできなかった。

それぞれの思惑を秘めてラストシーンはナニワの海で大決闘になる。
読み応えある。迫力もある。ありえねーというシーンも続出。そして残酷。

主人公景はじゃじゃ馬である。男まさりである。オンナは海賊になれないが自分は海賊がしたい。
そして戦をしたい。勝手に憧れていた女性である。もちろんそう言うだけあって腕はたつ。
ひょんなことから出会った一向宗の者達を大阪に送り届けることに。本当の目的は堺に行けば景のようなものが美女ともてはやされると言われたからである。
長身で小顔の景は今ではモデルのような雰囲気でもちろん美女になるのだろうが、当時の日本の美意識からは醜女である。
そして大阪に海賊がおり、そこでひと暴れしたいという思いもあったのかもしれない。
しかし本当の戦を見てしまう。自分の未熟さ、幼さを知り、「いい女」、嫁に来いと言ってくれていた眞鍋七五三兵衛に「おもろない奴」と言われ意気消沈して能島に帰国する。
本願寺の猛烈な要請により1000艘もの船団を組んで東に向かう毛利軍、村上海賊。
しかし様子見をして見殺しにするつもりだった。景は大阪に送っていった馴染みの一向宗達を救いたい一心で単身で交渉に向かうが失敗。
そして雑賀衆を巻き込んで海賊へ戦を挑む。それを知った村上海賊衆は姫を救うために一気に好戦的になる。
慎重な長男元吉も臆病な弟景親も一気に攻め入ることになり、大規模な海戦となる。
優勢と見るや形勢逆転、そしてまた逆転。漫画かこれは?というようなストーリーだが、ほんとうに面白い。映像化は無理かな?チープになりそう。
するならハリウッド並みの予算で派手に作って欲しい。

村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 下巻

村上海賊の娘 下巻

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