悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

忍びの国 和田竜

のぼうの城」の和田竜の本。
忍者の話というのはタイトルからもわかる。
そして読み始めるとまたすごい。
おなじみの伊賀忍者百地三太夫なども登場するが、コイツが非常に癖が悪い。
イメージ的には真田広之が若い頃に出演した「百地三太夫」のイメージぶち壊し。
真田広之主演の「忍者武芸帳百地三太夫」もかなりひどい映画だが、アクションは派手だった。
ともあれ、百地三太夫は「信長の野望」シリーズなどのゲームでも登場するすごい忍者。
風魔小太郎とともに伝説の忍者である。
しかしこの作品では本当に最悪の人物として描かれているが、考えればこの作品の百地三太夫こそが本来の姿だと思う。
伊賀者がいかに忌み嫌われていたかがわかる。
伊賀者である二人がそれを証明している。
出奔し伊勢の北畠に仕えた後は織田家に仕える柘植三郎左衛門。
冒頭で百地三太夫と小競り合いを演じていた下山甲斐の息子、下山平兵衛。
この二人は伊賀者、忍者であるにも関わらず、その生き方、人間を心底嫌っている。
はじめはこの平兵衛を中心に話が進むのかと思っていた。
しかし主人公は百地三太夫の下忍だが、伊賀者の中でもその腕は比肩するものがいない「無門」と言われる忍び。
コイツは登場した時からずっと面白いキャラクターなのである。
そして織田方の主戦である日置大膳もまた規格外の豪傑として描かれていく。
きっとすごい闘いがこの二人で行われるのだろうと思っていた。
それはあたっていたが、すごい戦いなんてもんではなかった。
この作品のポイントとなる、「伊賀者は人間ではない」という部分。
この「無門」の闘いぶりを見るとまさに「人間ではない」。
飛んできた矢を後ろ手で掴むなんてことは当たり前だし、不可能というものは何もないのではないのかという無双ぶりである。
日置大膳との闘いでもはじめは格好良かったが、最期はもはや「無門」は無双状態。
彼を倒せる武将はいない。
この絶対的な「強者」である「無門」も弱みがある。
武家の娘「お国」をさらってきて「嫁」としているが、全く頭が上がらないダメ亭主ぶりである。
そこが非常に可愛らしく憎めないキャラクターとして輝いている。

しかし悲しい物語でもある。
どうして「お国」に頭が上がらないのか、自分でもわからなかった無門だが、最後になって気づく。
人間の所業ではない「忍び」として生きてきて、人間として生きるギリギリのところで拠り所としていたことに気づく。
ほんとうに悲しい主人公である。

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