悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

小暮写真館 宮部みゆき

上巻を読み終えて、下巻を読もうと思えば女房が持ってきたのはハードカバーの分厚い本。
ブックオフで下巻の文庫を買うよりも安かったとかでこちらを購入したという。
ちょっと邪魔だけど続きが読みたかったので、通勤カバンへ入れて読んでいた。

上巻を読み終えた時には、高校生の主人公、花菱英一が心霊探偵として活躍する1話読み切りもの?という軽いノリだった。そういう感じで上巻話が進んでいたし。
しかし、下巻は少し重くなっていく。
小暮写真館に出る幽霊の話から元の持ち主に関すること、そしてそれはあくまでこの話の添え物であって主題は花菱家の内部の話、花菱家のタブーに関することに踏み込んでいく。
グッと話が重くなってきている。
その間に暗くて辛い話もたくさんあるが、軽妙で面白いところもたくさんあって、味わい深い。
登場人物も増え、それぞれしっかりしたキャラクターを設定しているので魅力がある。

花菱家には暗い過去があった。タブーである。英一の妹、ピカの姉にあたる風子が4歳で亡くなったことである。風邪をこじらせてなくなったが、そのことが花菱家に大きな波紋を投げかけた。
父親の秀夫にも、母親の恭子にも、そして当時2歳でことの詳細を知らない弟の光(ピカ)にも責任をそれぞれ抱え、心の重みになっている。
花菱家は親戚と疎遠になっている原因も風子が亡くなったことが強く影響している。
読んでいて辛いのは子供の死。そしてそのことを幼いながらも非常に賢いピカが強い責任を感じているし、主人公も忘れよう、(冷凍保存中)としているが、根強く残っているのである。
ラスト近くになって、英一が単身(本当は良い関係になってきている柿本淳子も付き添っていたが)祖父の納骨に立ち向かう。

大筋では花菱英一とその家族の話が中心。しかし脇を固める話もなかなか味があって良い。
コゲパンのこと。柿本順子の過去。登校拒否する子供の話。クモ鉄の面々やら自主制作映画の話題など盛りだくさんで悲喜こもごもである。

ラストシーンはなんとも言えない切なさが残るが、たくましく成長している英一が描かれているし、柿本順子も最悪の状態ではないことがわかり救われた気がする。

描いているのは青春まっただ中の子どもたちの世界が中心だが、登場人物は本当にすごくしっかりした人物ばかり。みんな自分の立場をしっかりと見つめ、将来に備え努力をしているのである。本当に気持ちのよい連中ばかりである。
超万能人間のテンコもそうだが、一番幼いピカですら本当にしっかりしすぎて、出来すぎである。


小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

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