悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

共食い 田中慎弥

芥川賞を受賞した時のコメントがTVで話題になった人。それくらいの印象しかなかった。
芥川賞はつまらない作品が多いという。そういう理由でということでもないが、芥川賞受賞作をあまり読んでいない。
今回のこの作品も読んでみて、この小説の主題を見いだせず、読んでいる間もワクワクするようなところは全くなく、後味の悪さが残るストーリーと言い切れる。
しかし長さがそれほどないのでダレることなく一気に読んでしまった。多分どこかで話が大きく展開する、そんな期待もあったのかもしれない。
残念ながら期待は裏切られ、初めから終わりまで続いていた陰鬱さがずっと継続し、救われない気持ちになってしまう。
方言がきつい作品だが、描写など文章としては素晴らしいのだろうけど、物語としては好きになれるものではない。こういうものを純文学と言い、芥川賞の作品の対象になるのだろうけど、読んでいて楽しくはなかった。好きになれそうにない。
まあ、セックスと暴力と、最悪の家庭環境が揃い、最終的に殺人となれば、純文学が成立するということか?

もう一つの作品である「第三紀層の魚」も「共食い」ほどのエグさはないが、なんともやりきれない感じの小説である。どちらも少年が主人公という共通項はあるが、内容はかなり異なる。

巻末の瀬戸内寂聴との対談が一番まともとも言えるが、あんなものは必要なかった。その分もう一つ作品でも掲載してくれたほうが良かった。

「共食い」
情事の際に女性を殴るという性癖をもつ父とその性癖を受け継いだ主人公。
父とは違う、逃れたいと思いつつも同じような行動をとってしまう。
近所に住み、魚屋を営む産みの母。父と後妻と住み、実母の食事を食べるという主人公。
性に奔放というよりも異常者である父親。
その血を受け継いだ息子の葛藤を描いている。
そして近所に住む同級生とのセックスでついに父と同じような行動をとってしまい、仲違いする。
その頃、父の後妻が妊娠し、家を出て行く。
同級生とのよりを戻すために約束した祭りの日に主人公の彼女は父親に犯されてしまう。
そしてついに魚屋の実母が元の夫である主人公の父を殺害するという話。

第三紀層の魚」
こちらが芥川賞でも良かったと思う。
釣り好きな少年。父は他界し、母と二人暮らし。しかし父の実母は健在。
その祖母も旦那を失っており、その父親(義父)、つまり主人公の曽祖父の面倒を見ている。
曽祖父は寝たきりであり、何から何まで嫁の世話になっている。
なんとも複雑な家庭環境である。
血縁は曽祖父と主人公。祖母とも血縁だが、曽祖父と祖母はもちろん義理だし、祖母と母とも義理の関係。


共喰い

共喰い

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