悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

螢 麻耶雄嵩

密室殺人事件、内容的に「十角館の殺人」を思いださせるような雰囲気である。
予め登場人物のことが記載されているが、その事自体がトリックに利用されているとは思わなかった。ちょっとストーリーを追いかけているだけでは解けないトリックであり、読者からすると汚いと思わざるをえない。
オカルト的な話に見せかけつつ、密室殺人事件という内容で、現実味がない話ではある。
オカルト、ミステリーの大学サークルの合宿での事件を描いたものである。
ファイアフライ館」という建物が世界的なバイオリニストである「加賀螢司」が建てたミステリアスな屋敷。
その屋敷で起きた連続殺人事件。彼が率いる楽団8人のうち7人は死亡。6人は「加賀螢司」の狂気によって殺され、一人は行方不明のままという惨劇があった。
その屋敷を一山当てて金持ちになったサークルOBの「佐世保」が買取り、別荘としている。
その別荘で招かれたサークルのメンバーたちの合宿である。
連続猟奇殺人の犯人である「ジョージ」の存在も取り上げられている。この殺人鬼は見つかっていない。
とその魔手の餌食となった元サークルのメンバーの「つぐみ」の存在。
「つぐみ」の彼氏であった「諫早
館のオーナーのサークルOB「佐世保
最上級生のサークルの会長である「平戸」
3年で臆病な「大村」
2年でデブだが、存在感の薄い「長崎」
1年の理屈っぽい「島原」といつも口論している「松浦」
登場人物はこれだけである。
苗字のことをあまりきにしていなかったが、よくよく見ると地名である。それも長崎県の地名。何か意味があるのだろうか。

主人公目線で語られているのでてっきり主人公は「諫早」と思わせるのがこの小説のずるいところである。
また紅一点のメンバー「松浦千鶴」は語りの主人公?からは「千鶴」と書かれているが、メンバーからは名前ではなく「松浦」と呼ばれている。
そして「松浦」自身も自分のことを「ボク」と言っているのが気にはなっていた。
騙される。騙すために書かれている文章である。

ストーリーは強引だが、騙すための構成は緻密だと思う。

個人的にはちょっと好きでないストーリー。
この館で連続殺人事件が起こるが、どんどん死者が出て行くというわけではなく、まず一人死ぬ。ぎりん暗記になりつつも悪天候のため山を下れずに悶々と過ごすというストーリー。
ラストになり二人目が死ぬ。
明らかに殺人事件としてはテンポが悪い。
ただ、死者はあまり出ないが、怖さは十分にある。かつて連続殺人事件があったということもポイントが高いきがする。
エピローグを見て、生存者は一人ということを知る。なんでまた全員殺してしまったんだとも思う。
そしてその生存者こそが今回のメンバー二人を殺した人間である可能性が高いのではと思う。

場所は関西であり、いきなり大和川や柏原警察などが出てきて、大阪の人間としては身近に感じるものの、すぐに舞台は辺鄙な山奥の別荘での話となり、関西を感じさせるものは何もない。
また、大阪のF大学ということから関西人、関西弁が全くない。まあ、文章としていろいろな地方の人が読むわけだから、会話部分がコテコテの関西弁だと締まりはないので仕方がないか。

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.