悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

模倣犯 宮部みゆき

代表的な作品だが、今まで読もうという気が起きなくてほうっておいたが、読んでみた。
軽い気持ちで手にとったが、なんと5巻もある。しかも一冊が結構長い。本当に長編小説である。

しかし読み始めるとその長さを忘れ、ドンドンと読み進めてしまう。非常に奥が深く面白い小説である。ジャンルとしては犯人探しをするような推理小説ではなく犯罪小説である。
第1巻を読んだだけでこの本の犯罪事実は全てわかってしまう。その後の巻は違う立場からトレースするような状態である。

第1巻では第1発見者である塚田真一と彼を預かることになるジャーナリストの前畑滋子の立場から描かれる。犯罪の一面を一般人の目を通して見ることになる。そこに登場する被害者の家族たち。中でも大きな役割をはたすのは古川鞠子の祖父である有馬義男。凶悪な犯罪にもかかわらず、マスコミを通じてセンセーショナルになることを楽しむ犯人。そして犯人たちが事故により死亡して連続殺人は終息する。
ここまでが第二部。


第2巻からは第1巻の終わりから時間が巻き戻されて描かれる。第二部となっている
犯人とされている二人の視点から見た物語。栗橋浩美と高井和明。
栗橋浩美の家族とその人生、そして高井和明の家族のことが細かく描かれる。
近所に住む幼い頃からの友人である。少なくとも高井和明にとっては大切な友人だった。
栗橋浩美が凶悪な殺人犯になるまでの経緯なども描かれる。

第3巻は真犯人ピースが登場する。そして高井和明と栗橋浩美の3人が中心になって物語が進む。
犯人側から見たことが描かれていく。
幼馴染でありかけがえのない友人で彼を救うことができるのは自分だけだと単身で乗り込む。
そしてピースと栗橋にに拉致されるが、必死の説得で悪夢から冷めつつある栗橋浩美。
結末は残念ながら二人の死亡事故であった。

第4巻からは第三部
連続誘拐殺人事件の犯人として栗橋浩美と高井和明が世間の目にさらされる。もちろん二人は死亡事故でこの世にいない。
栗橋はともかく、高井和明の犯行には異議を唱えるものも少なくない。
そして兄の無実を必死で訴える妹の高井由美子が登場する。
そしてふたたび前畑滋子、塚田真一、有馬義男たちが登場する。
何よりも重要な人物、この物語の主人公でもあるピースが本名で登場する。
兄の無実を信じて戦う悲劇のヒロイン高井由美子をを救う白馬の騎士として颯爽と登場する。

第5巻になってピース、網川浩一は本を書き、一躍時の人となる。
網川浩一は常に人の心を操り、自分の思い通りにシナリオを進めていく。
ついには高い由美子が自殺。しかしあみ河は段々と追い詰められていく。
模倣犯」というタイトルがこのような意味を持つということがこの巻で描かれる。

犯人の手にかかった純粋な被害者、たとえば古川鞠子などがかわいそうに感じるのは当たり前だが、それ以上に読んでいて辛いのは高井一家である。
努力して勝ち取ったささやかな幸せ。街の蕎麦屋という本当に地味な店を家族力を合わせてもり立ててきた。それがわかるだけに非常に悔しい。
高井和明が犯行グループにされたことも非常に腹立たしいが、無実を訴える妹由美子も哀れである。結局この一家はこの事件のために子供二人を失い、店も失い、何もかも無くなってしまった。やるせない。

犯人の一人である栗橋も主犯であるモンスターの網川も家庭事情は問題があった。それを差し引いても本当にひどい事件である。
栗橋の家庭事情に関しては母親に相当な問題があったと思う。もちろん父親にも。どうしようもないが。
網川の場合は、妾に産ませた子供だったということで頭の良い子供であったことからも少年期に歪んでいったのであろう。
悲しい物語である。

模倣犯1 (新潮文庫)

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模倣犯 [DVD]

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宮部みゆきの代表作でもあり、大ヒットした小説なので当然映画化されている。
しかしこの映画はひどいらしい。見ていないけど、相当なものらしい。
なんといっても原作者が途中で退席したという話もあるくらいだから相当なものなのだろう。
SMAPの中居が主演。なるほどとも思う。日本の映画の悪いところはまず事務所の力で配役が決まってしまうところだろう。
本来は映画は作品として適切なキャストを配置するものなのだが、俳優やタレントのために作品を作ってしまう。
ジャニーズやアイドル映画などはその典型だろう。
ハリウッドのような派手なアクションはもはや無理だと思うが、アイデア次第でフランスやインドの映画のような作品は作れるはずである。
アイドルや人気者を使うことが前提になっている映画ばかりでは作品としては面白くないものが多くなっても仕方があるまい。

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