悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

山月記 中島敦

短編小説である。したがって無駄な描写がなく、すぐに読めてしまう。にも関わらず、話の内容に引き込まれてしまうのは何故だろうか。
ストーリーはそれほど難しい内容ではないものの、心にずっしりと来る重みがある。
才能はあっても、性格に問題があり、人と交わることを厭う。そして自分はできる人間だという自負心だけで、役人のようなつまらない人生で終わるのはまっぴらだとばかりにやめて、詩人として後世に名を残すべく、山にひきこもってしまう。しかし、詩を作っても世に認めてもらえず、結局は役人に舞い戻る。
戻ったときには以前は馬鹿にしていた人間が出世しており、その下で働くことをよしとしない。ついには気が狂ってしまい、森に入ったきり行方不明になる。気がつけば虎になっていた。
同期の数少ない友人がその森で虎と遭遇。そして自分は人間でこういう姿になってしまったことを告げる。
虎になってようやく自分をしっかりと見つめられるようになったが、もはや元には戻れず、それよりも人間としての理性も失われつつある。最後に友人に家族を託し、自分の詩を伝える。友人は確かに彼の才能を見るが、どこかが足りないこともすぐに気づく。結局は臆病な自尊心と尊大な羞恥心が彼を閉じ込めていたということに気づく。
短い作品だが、本当に力強く描かれており、ずしりとこころに響く。才能はあってもやはり人は人によって磨かれていくものであるし、人との交わりを避けてはますます家にこもってしまう。
いろいろな局面でそう感じるところもある。謙虚な気持ちと人を尊重する心はいつも持ち合わせていたいものだ。


李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

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