悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

悪の教典 貴志祐介

ネタバレも含んでいるので…。
またまたこんな本を借りて読んでしまった。うーん、今までにないタイプかな、とも思う。サスペンスやミステリというジャンルではなく、最初から殺人鬼は分かっている。ホラー?ともちょっと違うと思う。怖さが足りないのである。ホラー色が強いのはちょっと前に読んだ「黒い家」のほうが強いような気がする。殺人のシーンは圧倒的に「悪の教典」が多いが、あまりにもたくさん殺しすぎるので怖さが薄れてしまう。
映画でもスプラッターと言われるジャンルはエグい、グロい表現が出てきて目を背けたくなるものの、気持ち悪さはあっても怖さはの種類は違う。それよりも今にも殺されるという心理状況に追い込まれる方がエグイ殺しのシーンよりも怖さが優っているというのに似ている。後半の学校内でのシーンでは理不尽に殺人鬼の殺されていく生徒たちはもはや登場人物としての役割ではなくエキストラに近い感じがする。一応一人ひとりに人間としての背景が描かれてはいるが、あまりに多く殺されていて、ただの射的の標的にようにしかかなっていないような気がする。そこは残念である。
それに怖さがあるのは主人公が命の危険を感じる場合であって、やはり主人公が殺しの主体となっているのはどうかと思う。映画でも追い詰められる主人公というシチュエーションばかりだと思う。追い詰める側の視点で描かれているというのは少ないのではないか。
映画にするならば、バトル・ロワイアルキル・ビルのような血しぶきが飛び散る映画になるだろう。どういうふうにつくってもB級映画になる要素が満点である。
本来は安全と信じられている学校が舞台。学園モノの殺人事件というのも怖さがあるのだが、今回は生徒を守る側の先生が殺人鬼という設定である。極めて知能が高く、生まれながらの天才だが、天は二物を与えなかった。人間としての感情を彼に与えなかった。よくある殺人鬼にある快楽殺人ではない。主人公は殺すことそのものに興味があるわけではない。自分に不利益があるときに殺人によってそれが排除できるなら躊躇なく殺すことが出来る人物として描かれている。人間としての憐憫の情などが全くないのである。蚊を叩き殺すよりも感覚としては無造作に殺すことができる人物として描かれている。作者としては血肉の通わない、人間としての感情を持たない怪物として描くことによってホラーを成立させようとしていると思う。
こういう作品なので後味は悪い。幸い学園での惨殺劇によって逮捕されるが、ここまで描いたんなら最後も逮捕されずに次の獲物を狙うというオチで恐怖を残すということでも良かったんではないだろうか。

悪の教典 上

悪の教典 上

悪の教典 下

悪の教典 下

バトル・ロワイアル [DVD]

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殺人シーンが多い作品。エグさが目立つが、怖さはいまいちだったような気がする。こう言うのが好きな人もいるんだろうなあ。


エグさばかりが際立った映画だった。栗山千明の女子高生殺人鬼がよかったなあ。タランティーノ作品。

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