悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

永遠の0 百田尚樹

小説であることを理解しつつも涙なしには読めない。
太平洋戦争ものを数多く読んだ方には不満な部分もあるかもしれないが、戦争を知らない世代、あるいはそういう世代の子供達の目線から見つめ直した太平洋戦争を描いた作品だと思う。
ひとりの戦闘機パイロットが主人公達の祖父である。いや、むしろこの宮部久蔵という戦闘機パイロットこそが真の主人公である。
この人物が体験した世界を通して太平洋戦争を見つめ直す。三菱零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦と特攻隊というモノを通して、当時の若者がなぜ特攻で散っていったのか。日本のトップの判断はどうだったのか。のちの歴史研究家が書いた固い読み物ではなく、あくまで小説として語られる分、非常に読みやすく、かつ感情移入しやすい。これを涙なしには読めない、そんな非常な人間は日本人じゃない。そんな気がした。
物語は姉が祖父のことを調べるというところから始まる。実の祖父、つまり祖母の最初の夫が戦争で亡くなったということは祖母が死んだあと、祖父から聞いたものである。祖父が血縁で無かった事のほうが驚いたくらい今の祖父は母やその子供である孫を可愛がってくれた。
物語の途中に登場する、宮部久蔵の自分物を語る生き証人。それぞれの考えがあり、時には臆病者呼ばわりし、時には憎まれながらも徐々に祖父、宮部久蔵の姿が見えてくる。そこには戦記物のような美談やヒーロー物ではなく、戦闘機乗りの生き様から生々しい戦争が描かれている。
徐々に分かってくる実の祖父の姿、生きることへの強い願望を持ちながらもそれがかなわなかった祖父。また祖父たちと共に生きた人々のはかない命が悲しすぎる。
その反対に生命を軽く考えていた軍部の上層部。エリートたちが始めたエリートたちの戦争でありながら、最前線で死んでいく善良な若者たち。戦中は華々しくかきたてた新聞が戦後は手のひらを裏返したかのような兵士たちへの批判。それぞれが怒りを抜きにしては読めない。死んでいった人たちは不条理を感じながらも抗議一つできるわけでもなく本音を押し殺し、耐えて死んでいった虚しさ。
そんな中で祖父、宮部久蔵が戦った生きることへの執着、生きるためには戦えるが、死ぬことしか許されない特攻隊への反論。本当の勇気というものは何なのか考えさせられる。

最後は出来すぎ感があり、やっぱり小説だと思わせるところもあるが、小説はこういう話で終わらないといけないとも思う。これほど感動の作品を書く百田尚樹という作家のことは知らなかった。この作品がデビュー作だそうである。この作品を超えるのは大変じゃないだろうか。心血注いだ作品だと思う。
太平洋戦争という暗い、現代っ子には取っ付きにくいテーマに対して、堂々と描いてあり、いろんな面で読みやすく、分かりやすい。今の若い世代はもちろん、戦争を知らない団塊の世代や私のような世代(高度成長期生まれ、バブル世代)もぜひ読んだほうがいいと思う。

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

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