悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

クライマーズ・ハイ 横山秀夫

借り物の本。横山秀夫の作品を以前読んだ印象は地味。そういう事もあって、最初はあまり乗り気ではなかったが、他に読むものもなかったので、とりあえずは通勤電車の中で読もうと思っていた。
動機 横山秀夫 - 悪魔の尻尾

予想通り、最初は読むペースも上がらず、こんなモノかなという感じ。テーマが日航機墜落事故ということは知っていたが、映画も見ていないし、もちろんストーリーも知らない。こういった小説には登山などのテーマも多いが、はっきりいって登山というものには興味がないので、理解ができないところがある。
それがしばらく読み進めると、面白く、心の中の糸に触れるような部分もあり、引きこまれていく。後半からラストにかけては本当にテンポも上がり、話も大きく展開していく。ラストシーンは感動のあまり泣いてしまった。
本を読んで涙を流すということはあまりないが、この本のラストシーンには全ての想いが詰まっていたのか、思わず目頭が熱くなり、通勤電車の中で泣いていた。
以前読んだ東野圭吾の「秘密」もラストはいたたまれず、涙したが、この作品もそうだった。辛抱できなかった。

北関東新聞社という群馬県の地方新聞社が舞台。そこの記者である悠木が主人公。歳は40歳。ひょんなことから安西という販売部の人間と始めた山登り。安西の提案で県内で有名な衝立岩に登る約束をする。がその当日、世界最大の航空機事故である日航機墜落事故が発生。また安西は過労によりクモ膜下出血で倒れる。日航機墜落事故の全権デスクに指名された悠木は世紀の大事故をどのように扱えばいいのか葛藤する。新聞屋として燃える若い記者。過去の栄光にすがりつき、権謀術数の限りを尽くす上層部。サラリーマンのいやらしさを思い知るような作品でもある。悠木は典型的な新聞記者。家族を省みず、家庭は冷め切っていた。とりわけ息子の淳とは距離が空きすぎてしまい、本人もどう対処していいかわからない状態。そこに植物状態になった安西の家庭が重なる。日航機墜落事故の当時と現在とを行ったり来たりする形で描かれる作品だが、当時の思い、葛藤などを描きながらラストは壮大にそれらが絡みあう。ほんとうに深い感動をもたらした作品。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

横山秀夫群馬県の地元の新聞記者出身だそうである。まさにこの作品を生むために彼は存在したんではないだろうか。渾身の力作と思う。

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