悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

鎮火報 Fire’s Out    日明 恩

主人公の新米消防士、大山雄大。体は大きく、血の気が多い。本人は消防士なんてやる気はないと言いつつも消防士になるために生まれてきたおことかもしれない。それもそのはず、父親はまさに消防士の鏡のような人だった。しかしその実直な消防士の父は消防士ゆえに殉職してしまう。残された母と自分。それ以来、父を逆恨みし、自分は父のようにはならないことを心に誓って生きてきた。父に命を助けられた仁藤。仁藤は両親を失い、家族同然で兄のように慕っていた。彼は消防士になる。雄大はそんな仁藤とは仲違いするようになり、学生時代は喧嘩や遊びに明け暮れる始末。仁藤に発破をかけられ、発奮したことが消防士になる切っ掛け。父や仁藤のような消防バカにはならず、楽して公務員の身分をむさぼってやると言うのが彼の考え。
しかしながら消防活動や周りの仲間、上司たちの影響もあり、次第に消防士としての自覚が芽生え始める。消防士としてと言うよりも人間として未完成で荒削り。彼の人生に大きな影響を与えるのは親友の裕二と守。裕二は子供の頃からの無二の親友。学生の時は一緒に散々悪さをした仲間。彼も非常に辛い人生を送っているが、非常に頭のいい彼は自ら人生を悟りきっているようなところがある。一方の守は経済的には全く不自由のない人間だが、生きていることに意味を見いだせていない?ほとんど家に出ずひきこもってインターネットなどから情報収集する中年である。非常に変わった人物だが、雄大や裕二たちとはひょんなことから知り合い、年は親子以上に離れているが、仲の良い友だちである。
消防と言うみんなが知っている仕事だが、実際はその業務について深く考えることもない。消防にスポットを当てた小説もあまりないが、この小説は消防士の英雄譚ではない。どこにでもいる今風の若者、大山雄大を通して詳しく描かれている。この小説に出てくる人物ばかりが消防士ではないと思うが、雄大の属するチームは当に理想的な消防チームである。
作者は日明恩。たちもりめぐみ?読めないよな。男?女?名前からは判断がつかなかったが、、日本女子大だから女性である。女性が書いたとは思えないようなシモネタを含んだ微妙な表現もあるが、新鮮である。
かなりの長編小説だが、文章表現も癖がなく読みやすい。消防と言う知っているようで知らない世界の話。おすすめである。

鎮火報 Fire’s Out (講談社文庫)

鎮火報 Fire’s Out (講談社文庫)

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